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秋の終わり、冬の始まり

***  サッ……サッ……  僕はいま、写楽の部屋の前の庭を掃いている。本格的な秋になり、片付けても片付けても落ち葉ははらはらと舞い落ちてくるから、毎日掃いていても一向に減らない。もう少し寒くなれば、木々達もみな裸になるんだろうか。  そうなったら掃除のしがいがなくて、少しさみしいのかな。 「掃くのは俺の部屋の前だけでいいからな」 「うん」  二か月前、夏の終わりか秋の始まりかそれぐらいの時期に、写楽と海に行った。前日に楽しみにしすぎた僕は寝不足で案の定体調を崩し、写楽は近くのホテルで休ませてくれたばかりか、恐い夢を見て取り乱した僕を何度も優しく抱きしめてくれて……  そして、……『好きだ』って。  絶対にその口からは聞くことができないと思っていた、聞きたいとも望んでいなかった言葉を聞かせてくれたんだ。その上、恋人にはなりたくないなんていう僕のワガママも考慮してくれて、『今度は俺が待つから』なんて……。  信じてないわけじゃないけど、未だに信じられない。あまりにも僕にとって都合が良すぎて、僕の妄想じゃないだろうか、なんて思ってしまう。 「ほら、終わったんなら上がって来い。外寒いだろ」 「……うん」 「もうすぐ、本格的に寒くなるな」  縁側に腰掛けて草履を脱ぎ、伸ばされた手に触れたら、そこから彼の熱が僕の身体に伝わってきて心臓が震えた。 「ほら、こんな冷えてんじゃねぇか」  窓と障子を閉めて、完全に外界から切り離される。小さくて、狭い世界。僕達が望んだところ。彼は僕をぎゅうと抱きしめて、頬と頬をぴたりとくっつけた。 「……写楽は、あったかいね」 「そりゃあ、家の中にいたからな」  もっと、あっためて  言葉にはせず、自ら彼にすり寄ると僕の意図は正確に伝わったみたいで 「……脚の先まで、温めてやるよ」 「あっ、」  そのままひょいと抱えられて、ベッドへ運ばれた。しまった、先にシャワーを浴びるべきだった……。  それでも外の気温で冷え切った身体に彼の熱はとても心地よくて、いまさら『やめて』なんて言う気にさえならない。汚れた身体のまま抱かれたいなんて、僕はダメなペットだ。 「……ヤラシイ顔、してみせろよ……」 「あんっ……はい……」  するすると慣れた手つきで服が器用に脱がされていって、彼が望む通りに僕は鳴いた。 *  最初は、僕だけが彼のことを好きだった。告白するまでは、遠くから見ているだけだった。  絶対に触れられないと思っていた。視界に入れてもらえることさえ、できないと思っていた。もし殴られても、それさえも嬉しいだろうな、って……。   だからペットにしてやるって言われた時は、その場で死んでもいいくらい、嬉しかった。  彼の一挙一動にドキドキした。それは今でも変わらないけど……僕だけが勝手に好きなら良かった。  彼の気まぐれで触れられて、彼のすべてにドキドキして……そうやって、一人で勝手に盛り上がっていればよかった。 「遊、好きだっ……!」 「ひあっ!あっ、あーっ!!」  がっちりと腰を掴まれて、何度も何度奥を突かれて、甘い言葉とともに僕のナカに吐き出された彼の熱い精液を受け止めながら、僕も絶頂に達する。あまりにも気持ち良すぎて、イった瞬間、目の前が真っ白になった。  ……好きだ、なんて言わないで。  君を見ているだけで勝手にドキドキしていた僕を君も好きだなんて、幸せにも程がある。ドキドキが何倍にもなって、心臓が握り潰されてしまいそうだ。 「……お前、俺が好きだって言ったら締めすぎだっつの…そんなに嬉しいかよ?」 「う、うれし……けど、もう言わなぃでっ……!」  息を整えながら、後ろから耳元で囁く彼に必死で訴えた。なのに彼は楽しそうに笑って、 僕の耳に囁きとともに唾液と舌をねじ込んできた。 「なんでだよ。折角普通に言えるようになったんだからもっと言わせろよ……」  ぐちゅぐちゅ、といういやらしい水音とともに甘い声で囁かれて、僕のモノはまた大きくなる。僕のナカに入ってる、彼のモノも再び硬くなった。 「あっ、あぁっ」  彼の両手は、ぷっくりと赤く腫れた僕の乳首を飽きもせずにいじっている。何が楽しいのかはよく分からないけど、気持ちいいから抵抗しない。そしてペニスは引き抜かずに、再び律動を再開した。 「やあっ、あ、も、おかしくなるっ……!」 「はっ、おかしいのは元からだろ、もっとおかしくなれよ……!好きだ、遊」 「んぁあっ!」  おかしいのは、元から……そうだね、君に会った時から僕はおかしかった。もっと言えば、君と出会うもっともっと以前から、僕はおかしかったんだ。

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