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賭けの対象

「ふざけんな溝内、遊を賭けの対象なんかにするかよ!」 「ふーん犬神、中山クンに負けるのが恐いの?」 そうそう、あの人はみぞうち先輩だった。その隣には、華奢で可愛らしい女の先輩が居た。溝内先輩の彼女さんかな?そういえばあの人も3年生のクラスにいたなぁ。何故か目を丸くして、僕の方をじっと見つめている。 な、なんだろう……。 「ふざけんな、誰が誰を恐いって?つうかその手には乗らねぇからな。賭けるならここのゲーム代とか負けた方を殴るとかそういうのにしやがれ」 「だってオマエ、ここの全員分のゲーム代払ったって痛くもかゆくもないだろ。むしろ勝負せずに払ってほしいくらいなんだけど?犬神グループのお坊ちゃま。殴るのだってお前すぐ手ぇ返ってくるしね」 「お前ら、俺を無視してんじゃねーよっ!!」 いつの間にか写楽と溝内先輩のケンカみたいになってて、中山先輩は蚊帳の外だった。その様子が少しおかしくて、僕はつい笑ってしまった。 写楽のライバルだってわかってるけど、なんか憎めないんだよね、この人。 「あ、やっぱあの時のペット君なんだ。私服だと女の子みたいだねー」 「え?」 いつのまにか、溝内先輩の彼女さんが僕の目の前に居て、僕の顔を覗き込んでいた。び、びっくりした……いきなり近いから。 「ふうん、やっぱり可愛い顔してるんだ。なかやん、こういうのが好みだからクラスのギャルには興味なさそうにしてたんだねー」 こ、こういうのって? 「舞!そいつに近づくなっ!」 「えー、なんでー?」 「何ででもだよ!離れとけっ!」 いきなり、溝内先輩が舞先輩にそんなことを言った。なんか僕、凶暴な動物みたいな扱いだなぁ。別にいきなり噛みついたりしないのに。 「なによぉ、りょーちんヘンなの」 ブツブツ言いながら、舞先輩は自分のレーンに戻っていった。そして溝内先輩の写楽へ向けられていた視線は、今度は僕に注がれていた。 なに?僕、この人に何かしたっけ……?なんでそんな目で僕を見るんだろう? 「……ま、賭けるほどの対象じゃねえか、犬神のペットなんて」 ふいっと、急に視線が逸らされた。 「何だとコラ!てめぇいい加減にしろよ溝内、遊は何もしてねーだろッ!」 「溝内てめー!俺のユウちゃんになんてこと言いやがんだよ!!ユウちゃんは犬神のペットじゃなくて俺の将来の恋人だっつーの!!」 「何仲良くなってんだよ……中山クン、いい加減目ぇ覚ませって。コイツは男だぞ」 「犬神だって男だろ!!」 しょ、将来の恋人!?これは笑っていいところだよね!!あれ、でも誰も笑ってない……。滑ってるってこと?? 「ふざけんな中山、遊は俺のペットだ!てめーなんかにゃ髪の毛一本だって渡さねえよ!」 「ふざけてんのはてめーだ犬神、いつまでもユウちゃんをペットとかふざけたこと抜かしてんじゃねえ!」 「ああ!?ペットにしてくれって言ったのは遊の方なんだよ!俺らの関係に口出しすんじゃねえ!」 「あんだと!?てめーが洗脳してんだろうが犬神!!」 「そんなもんに頼るほど飢えてねんだよ!!」 気付けば溝内先輩は他の先輩たちとボーリングを楽しんでいた。宮田くん達も、ボーリングを始めていた。 「遊ちゃん、時間が勿体ないからボーリングやろうぜ」 ぼーっとしていた僕にそう言ってくれたのは金田くんだ。なんとなく写楽たちの会話は聞いちゃいけない、みたいな雰囲気。 「う、うん…」 写楽たちは、まだ言い争っている。 普通に、賭けなしでボーリングで勝負すればいいのになぁ……。 隣のレーンで、宮田くんがボールを投げる様子を見て、僕も見よう見まねでボールを構えて 「えいっ」と気合いを入れて投げた。 「あー…」 「遊ちゃんどんまいー!」 すぐ溝の方に落ちちゃった。ボーリングって難しいんだなぁ……。 すると隣のレーンではしゅーっとボールがまっすぐ転がって行って、カーンっていい音がして一発で全部ピンが倒れた! す、すごい斎藤くん上手・・・!! 「よっしゃー!!」 「クソキンパひゅーひゅー!!」 「クソキンパ言うなや!!」 「痛ぇ!!写楽さんがそう書いてんだからクソキンパはクソキンパだろーがよー!!」 斎藤くんはハイタッチしようとした宮田君の手をすり抜けて、思いっきりその顔面にチョップしていた……痛そう。 「遊ちゃんボール来たよ!もっかいもっかい!」 「え、もう一回できるの?」 「できるよ!ほら、もっかいまっすぐ投げて!」 うう、まっすぐって言ったって、まっすぐ投げるの難しいよ。 「遊、腕を振り子みたいにしてみろって。間違って後ろに投げんじゃねぇぞ」 「あ、写楽!ケンカはもういいの?」 いつの間にか、僕の後ろには写楽が立っていた。 「てめーら全員先におっぱじめやがって…いいよあんなヤツ無視だ無視!」 「写楽の順番が来たらちゃんと呼ぶつもりだったよ」 戻ってきてくれたことが嬉しくて、僕はつい笑顔になってしまう。 「……そーかよ」 「んぅ」 僕の鼻をむぎゅっと摘まんで、写楽はベンチに座った。僕の鼻をつまむの、癖なのかな。まあいいや、目の前のピンに集中しなきゃ! 腕をまっすぐ振り子のように――っと 「えいッ」 ボールはゆっくりふにゃふにゃと進んで行って、今度は溝に落ちそうで落ちなくて、ピンを5本くらい倒して落ちて行った。 「やったぁ写楽、何本か倒れたよ!」 「倒れたなーよかったなー」 「うん!」 ベンチに戻ったらわしゃわしゃ前髪を撫でられた。少しばかにされてるっぽかったけど、-初めてピンが倒せて嬉しい! 「ユウちゃん、可愛すぎだろぉぉ……まじ、天使…!」 「「「「(か、可愛い……!!)」」」」 両隣のレーンから妙に視線を感じたけど、みんな次の写楽が気になってるんだよね?

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