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カラオケにて
初めて入ったカラオケボックスは、なんだかタバコのにおいがした。写楽の吸ってるやつのにおいは覚えてるし、好きなんだけど……なんか、違うたばこのにおいは居心地が悪い。 でも入って数分もすれば、そのにおいにも慣れてしまった。
「遊ちゃん、好きに入れていーぜ!じゃなきゃ俺らぽいぽい入れるからなー!」
「んと、歌える曲とか無いから聴いとくね」
流行の歌なんて覚えてないし、さすがに童謡なんて歌ったら引かれるだろうし。
「写楽さんは!?」
「俺もしばらくは聴いとく」
写楽、歌わないのかな……?写楽の歌とか聴いてみたかったな。カッコよさそう。
歌はバンドをやってる斎藤くんがすごく上手で、みんなもノリノリで頭を振ったり腕を上げたりタンバリンをジャンジャン鳴らしたり踊ったりしている。僕はよく分からないけど、ところどころ真似をした。
そんな僕を見て、写楽が少し困ったような顔で笑ってた。
「……ん?」
ある曲のイントロが流れた瞬間、写楽が眉間に皺を寄せた。
「おい、これ」
「写楽さんの得意なヤツです!遊ちゃんに聴かせてあげてくださいよーっ!めっちゃかっこいいじゃないっすか!」
「チッ……しばらく聴いてるっつってんだろーが」
そう言いながらも写楽はマイクを受け取って、歌詞が全部英語の歌を歌いだした。
「わ、わ……!」
これって洋楽?すごい、歌詞の意味は全然分かんないけど、発音とか音程とかがすごく上手いってことは僕にも分かる。
「写楽、カッコいい!」
ぼーっとなってる僕を見て、写楽は少し照れたような反応を見せたけど、最後まで歌ってくれた。歌が終わったあと、僕は写楽に盛大な拍手を送った。
「写楽、ボーリングもうまいのに歌もうまいんだね!勉強もできるし、できないことってないの!?」
「は?……飯とか作れねぇし、掃除とかもできねぇぞ」
写楽は僕の勢いにちょっとしどろもどろだ。料理とか掃除なんて練習すれば誰にでもできるのに!きっと写楽はやらないからできないだけだよね。
歌やボーリングなんてのは誰にでもできることじゃないから、僕はやっぱりすごいと思う。
「……気に入ったかよ」
「え、なにが?」
「さっきの歌」
さっきの英語の歌。内容は全然分からなかったけど、なんというか穏やかな感じで音が綺麗だった。
「うん、けっこう好きかも」
「じゃ、また同じ歌手の違う曲歌ってやるよ」
「ほんと!?」
「その代わり、お前もなんか歌えよ」
「え」
こ、こんな時に歌える歌なんてない……。
「何でもいいよ、あいつら国歌だってノリノリでノッてくれんぞ」
「そ、そうなの?」
「おう」
僕は、楽しそうに次の歌を歌っている宮田くんや斎藤くんを見た。確かに、懐かしいアニメソングとかいろいろ歌ってるな……。
よし。
「お、何か歌う気になったかよ」
「うん。それでね写楽、この機械どうやって使うの?」
「………」
写楽は最初少し呆れたような顔をしたけどすぐ真顔になって、僕に優しく『デンモク』という機械の使い方を教えてくれた。
そして僕は……梅月園の女の子たちがよく歌ってる、少し前に流行った某外国アニメ映画の主題歌を歌った。
初めてマイクを持って歌ったからすごく緊張しちゃったけど、まあまあ普通に歌えたと思う。
「レリゴーとか遊ちゃんの選曲が意外すぎてやべぇ!」
「てか普通にうまくね!?」
「よくそんな高音出るなー!」
宮田くんたちにたくさん褒められた。ちょっと恥ずかしい………。
「こ、声高いのは元々だから」
写楽の方を見ると、少しぽかんとした顔をしてて。
「……お前、なかなか上手いじゃねぇか」
って言ってくれた。えへへ………恥ずかしいけど、嬉しいな。
フリータイムだったからそれからもみんなで楽しく歌って、写楽も何曲か歌って、僕は知ってるアニメの歌ばかり歌ってたけど、なかなか好評で嬉しかった。もっと流行りの曲も覚えたいなぁって少し思った。
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