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ささやかな願い

楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。夏の時期に比べたら外が暗くなるのが早くて、明日は学校だしそろそろ帰るか、って誰かが言って僕たちは解散することになった。 「じゃあ写楽さん、また明日学校で会いましょうね!!」 「遊ちゃんもまた遊ぼうなー!」 「うん!」 宮田くんたちはみんな同じ方向だ。僕は……とりあえず写楽と一緒に居た。みんなが見えなくなるまで手を振って、 「……帰るぞ」 写楽がそう言って、僕らも帰路に着くことにした。 「……お前、今日は園に帰んのか?」 「え?……うん……」 2日連続でお泊まりするのはちょっとなぁ。 「……帰るなよ」 一瞬迷った顔をした僕を見たのか、写楽はすぐにそう言って僕の手を握った。 彼のこういう不意打ちの行動に僕はすごく弱い。一瞬で、体全体が熱くなった。 「明日の朝、バイクでお前んち寄ってやるよ。それなら別にいいだろ」 「でっ、でもお弁当準備しなきゃだから……」 「俺んちの食材使って作れよ。重箱あるしな」 写楽がそれでいいのなら……というか、そこまで提案されて断る理由なんてないんだけど。 「……うん」 だって僕もきみと一緒に居たいんだから。 そして僕は、さっきから繋がれている左手のことを写楽に聞いた。 「ねぇ、男どうしで手繋いでたら目立っちゃうよ……」 まだ夕方だし、帰り道の商店街は人通りだって多いからチラチラと僕らを見る視線を時折感じている。 「別に俺は構わねぇよ」 「そりゃ僕も、構わないけど……」 写楽は僕と違って、見られたくないような知り合いが沢山いそうなんだけどな。そんな僕の考えに気付いたのか、軽くため息をついて写楽が言った。 「今のお前、男には見えねぇから安心しろ」 「へ?」 「気になるならニット帽、もっと深く被っとけよ」 ああ……。そういえば、今日の僕は女の子に見えるって色んな人から言われたような気がする。だから写楽は手を繋いでくれてるのかな?そう思ったら、 「……別に、だからってわけじゃねぇよ」 まるで僕の心を読んだみたいに、すぐに否定した。だから僕はすごく驚いて、 「写楽ってエスパーなの?」 「はぁ?」 そんな馬鹿げた確認をしてしまった。案の定、写楽はまた呆れ声を出したけど。 「だって僕の考えてたこと、すぐに否定してくれたから……」 そう言ったら、写楽は珍しく噴き出して。 「ばぁーか。……ご主人様ナメんなよ」 そう言って更に強く手を握ってくれた。だから僕も、同じように握り返した。 ――ねえ、写楽。 これからもこうやって手を繋いで、時々セックスして、休日はたまに宮田くんたちと遊んだりする、そういう毎日が続けばいいな。 来年、僕達はもう高校3年生なるから本格的な進路を考えないといけないんだけど 、そんなの真面目に考えないでずーっとこうしていたいな……。 僕はきみのペットで、きみは僕のご主人様として平凡な日々をゆっくり過ごしていくんだ。何気ない幸せを噛みしめながら。 僕がこんなことを考えてるんだって言ったらきみはまた 呆れて笑うかな? 「……遊、何考えてんだ?」 「え?……明日のお弁当のおかずのこと……」 「テキトーでいいよ。お前の作ったもんなら何でも旨いに決まってるからな」 「そ、そんなことないよ……!」 「んなことあるよ」 「………!!」 写楽、大好きだよ。 ずっとずっと、このまま一緒に居たいなぁ。 居れるといいのになぁ………。 けど やっぱり現実はそんな簡単にいかない。幸せなんて、永くは続かないんだってこと、経験上僕には分かっているから。 それでも、願わずには居られない。 ずっと、きみと一緒にいられますように。

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