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重箱を探して
*
結局昨日は写楽の家に泊まって、夜のうちにお弁当仕込んでおこうと思ったけどお風呂に入ったあとはセックスになだれ込んで、日中疲れてたのかそのまま寝てしまった。
今は朝の5時……お弁当を作らなきゃ。
もうそろそろ板前の小山さんも起きてきて朝食の仕込みを始める頃だから、邪魔にならないように隅っこでお弁当を作ろうと思う。
その前に……
「写楽、写楽起きて」
「あぁ……?あんだよ、まだ早ぇじゃん……」
「僕は今からお弁当作るから。それで重箱ってどこにあるの?」
「俺が知るかよ……シズネか小山に聞け……」
それもそうだ。お坊ちゃまの写楽が、重箱の保管場所なんて知るはずないよね……無駄に起こしちゃったな。
「一応食材好きに使わせるとは小山に言ってあっからよ……あ、卵焼きは絶対作れよな……」
「分かりました、ご主人様」
半分寝ぼけて喋る写楽はかわいい。クスッと笑って、乱れた前髪をそっと撫でた。僕はゆっくりと布団を抜け出して、顔を洗って割烹着に着替えると 厨房へ向かった。
「あれ?」
厨房には、誰もいなかった。でも、小山さんが仕込みを始めようとした形跡はある。
「小山さん、どこか行っちゃったのかな?」
とりあえず僕は重箱さえ見つかればいいんだけど……勝手にゴソゴソ探すのも家探しみたいだし、失礼だと思うから僕は小山さんを探すことにした。
シズネさんでもいいんだけど……子どもたちと一緒に居たら起こしちゃうし、でも もう起きてるかな?
「小山さーん……」
か細い声で呼びながら、廊下を歩く。そんなに遠くには行ってないと思うし。多分だけど……あ、もしかしてトイレかなあ?
そう思って引き返そうとしたら、廊下の向こうから微かな声が聴こえた。
「あっ……、ンンッ……」
え?
この、声って……
“行ったらいけない"
“見てはいけない"
僕の頭の中には警告が鳴っているのに、何故か僕の足は僕の意思に反して声がする方に近付いて行った。
「あっああん、いいわ、そこぉ……!」
近づく度に、段々と大きくなる声。激しい息遣いに、衣擦れの音……。
「もっとよ、もっと突いてェ!」
僕は、この声の主を知っている……二人とも、知っている。
「奥様……!!俺もうイキますっ…!」
「いいわ、キてぇ!中に出してぇ!」
玲華さん、と、小山さんだ………
襖から光が一筋漏れ出ている。どうして僕はその時点で厨房に戻らなかったのか。
……どうして僕は、中を覗いたりしたんだろうか。
見ちゃいけないものを見るのは分かっていたのに。
「はぁ……はぁ……奥様……」
「うふふ……また沢山ナカに出しちゃって……」
余計なことを聞くと分かっていたのに。
「また貴方の子どもが産まれるといいわねぇ、小山」
(……あ……)
玲華さんの目が、小山さんから外れて……不意に僕と目が合ってしまった。
乱れた浴衣から白い脚を投げ出して、お化粧をしていない玲華さんはなんだか僕と同い年の少女のように見えた。
けど僕を見て にぃぃっと笑った顔は……
「っ……」
なんだか得体の知れない、バケモノみたいに見えた。
僕は、まだ息を整えている小山さんに見つからないように、できるだけ音を立てずに摺り足で逃げるように厨房へと戻った。
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