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『秘密』のこと
吃驚した……!!まさか、玲華さんと小山さんがそんな深い関係だったなんて……これって不倫現場ってやつだよね?
いや、それよりも玲華さんはなんて言った?
“また、貴方の子どもが産まれるといいわね"
『また』……って……
そして僕の頭の中には、以前玲華さんに言われた言葉が蘇っていた。
“写楽も知らない、私の秘密を教えてあげるわ”
“写楽が知ったらとっても喜ぶ……”
「………」
僕は声が出ないように自分の口を押さえた。まさか、秘密ってこのこと?伊織くんと華乃子ちゃんは、写楽のお父さん……つまり、犬神家の旦那様の本当の子ではない?
「……!」
そんな、だったらやっぱり犬神家の正式な跡取りは写楽じゃないか……!
「ったく、朝からお盛んだぜ……って、遊君!?」
「!」
小山さんがお腹をぽりぽりと掻きながら戻ってきて、僕の姿を見つけると度肝を抜かして驚いていた。
「ど、どうしてここに?あ、写楽坊ちゃんの弁当作るんだっけ、はは……」
なんだか小山さんの慌てっぷりが凄くて、逆に僕は冷静になれた気がする。僕は何も知らない顔をして小山さんに訊いた。
「あの、お重を探してるんですけど」
他人のあんなシーンを見るのは初めてなのに、どこか懐かしいような気もして……そんな風に思う僕は、やっぱりおかしいのかな。
「重箱?えっと、ここだここ。食材は好きに使っていいよ、坊ちゃんに言われてるから」
「ありがとうございます。仕込みの邪魔しちゃってすいません」
まあ、僕がおかしいのは最初からだっけ……。
それより、さっきのこと。きっとこのお屋敷の誰も知らないことだよね?玲華さんと小山さんが不倫関係にあること、伊織くんが正式な後継者じゃないこと、もしこのことを写楽が知ったら……。
「……っ」
だめだ、絶対に僕の口からは言えない。写楽は今更跡取りになりたいわけじゃないだろうけど、伊織くんが産まれるまではずっとそのつもりだったんだ。そういう使命みたいなものを、科せられていたんだ。
それが突然大人の都合で無くなって、でも、本当は自分が真の後継者なんだって知ったら……写楽は、一体どう思うんだろう。
「………」
「随分デカイ卵焼き作るんだね?遊くん」
「え?あっ!!」
考えごとをしていたせいで、卵を四つも割ってしまっていた。シーチキンでも混ぜて焼こうかな……。
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