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遊の変化②
「伊織と華乃子は?」
「写楽様のお部屋で隠れて待ってらっしゃいますよ」
「そうか」
それ言っちゃうのな。ま、別にいいんだけどよ……。
*
遊が俺の部屋の掃除やらアイロンがけやら色々やっている間、俺はチビどもの相手をしながらこっそりと遊の様子を伺う。普通、だよな……。
「ゆうにーたん!あそぼー!」
「えっ!?……ちょっと待って、アイロンもうすぐ終わるからね」
――ん?
「ゆうはかのとあしょぶのー!」
「かのこばっかりずるいからきょうはぼくと!!」
「だめー!!ゆうはかののー!!」
「あーもう、お前らケンカすんじゃねーよ」
今、少しだけど……伊織にビクついた……?
でも、遊がそうなったのはその時だけで、あとはいつもと同じだった。俺の思い過ごしなだけならいい。そう思ってたんだけど……。
*
「……本当に、送っていかなくていいのかよ」
「うん、大丈夫。今日は帰るのも遅かったし、写楽も早く寝て。ね?」
玄関の前で遊に送っていくと言ったけど、今日は断られた。別にいつも送ってるわけじゃないけど、俺はもう少し一緒に居たかったのに。
それにこいつ細いしチビだから、夜道で女に間違われるんじゃないかとか色々心配なんだよな。まあ、学ランだからそれは考えすぎかもしれないけど。
「ねえ、写楽」
そしたらふいに、名前を呼ばれた。遊の顔を見たら、何か言いたそうな顔している。
……なんだ?やっぱり、何かあるのか?
「なんだよ」
「……あの……」
遊は何も言わない。ただ、そう言いかけて言葉を探してるみたいだった。
自分で言いだして困ってるみたいだったから、とりあえず俺は抱きしめてみた。
「!」
「……ゆっくりでいいから。俺に言いたいことがあるのなら、ちゃんとまとめてから喋れよ」
「……うん……」
なんて、今すぐ聞きたいくせにカッコつけたことを言ってしまった……。
すると遊は、そっと俺から離れてぽつりと言った。
「写楽は、今の生活に満足してるの……?」
「はあ?」
なんだって?
「あ、ごめんなさい……!そんなの僕みたいな庶民には関係ないことだよね、出過ぎたことをごめんなさい!!今のは忘れて!?」
「いや……なんでいきなりそんなこと思ったんだよ?」
「ごめんなさい、何でもないんだ!」
何でもなくないのは分かるけど問題は、どうして急にそんな言葉が出たのか、だ。遊の様子が変わったことと、何か関係があるのか?でもこれ以上問い詰めるのはマイナスだ。絶対何も喋らなくなってしまう。
「……今の生活に満足してるかしてねぇかなんて、自分じゃよくわかんねぇよ。けど、金銭的には恵まれてると思うし、普通とは違う家だけど……別に悪くはねぇと思ってるぜ。お前もいるし」
「……!」
ああもう、なんで俺はこんなこっぱずかしいことを……。
「言わせんなっ」
「ご、ごめん!」
「やっぱ送ってく!飛ばせばすぐだしな。バイク持ってくっからそこで待ってろよ!」
「え、」
「ご主人様の言うことは黙って聞きやがれ」
ぶっきらぼうな言い方は照れ隠しだって分かった上で笑われている。くそ、俺はいつからこんなに遊に弱くなったんだろうか……。
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