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妄言か否か
結局、遊が本当に言いたかったことは聞けなかった。終始何か言いたそうにはしていたけど……でもこの分なら、そう待たなくても自分から話してくるんじゃないか、ってなんとなく思った。それまでは俺も、さっき言った遊の言葉をヒントに理由を考えてみることにした。
*
ガレージにバイクを置いて、自分の部屋に戻る途中。
「……あらぁ?誰かと思えば写楽じゃないのぉ」
「チッ」
薄闇の中、電気も付けずに一人で徘徊しているクソババアと遭遇した。なんでこんな時間にこんなところにいるんだよ。
「とっとと消えろクソババア」
「フフッ」
心底イラついた声でそう言うと、ババアは更におかしそうに笑った。
「何笑ってんだよ!」
イライラしたから、夜だけど更に大きめな声で怒鳴った。すると、
「あら……遊から何も聞いてないのねぇ」
と、ババアはごく普通の様子で答えたので、俺は一瞬息をつめて黙らざるを得なかった。
「……は?遊がなんだよ……?」
それに何、仲良さげに名前で呼んでるんだよ。ババアが遊に会ったのは、華乃子を殴ろうとしたあの時だけだというのに。
ババアは俺を馬鹿にしたような顔で笑い続けている。まるで俺だけが、何も知らないとでも言うように……。
確かに今はその通りだけど、これで確実に遊の変な態度の原因がこのクソババアに関係しているということは分かった。
「……てめぇ、俺が見てねぇ間にいつ遊に接触した?何を言いやがったんだよ」
「あらぁ、人聞きが悪いわね。遊が何も言ってないならあんたには関係ないでしょ~?」
何をいけしゃあしゃあと……本当にいけ好かないババアだ。
「じゃあなんで笑ってやがんだよ」
「だって笑えるじゃない。あんたのことなのに、あんただけ何も知らないなんてね!あっはははは!ほんとにおっかしーい!可哀想なガキねぇ!!」
「……!」
俺だけが知らない、俺のこと?……また、ババアのただの妄想か?
俺は専門家じゃないからわからないけど、ババアと遊しか知らない何かがあるってことは
もう十分に理解した。これはもう色々こじれない内に遊に直接聞いたほうがいいのか……。
でも。
何かされたってわけでもなさそうなんだよな。それなら俺にだってすぐ分かるし。
「……あーおかしい……ほんっとに可哀想よねぇ、あんたって」
「あぁ?」
なんで俺がクソババアに同情されなきゃいけないんだよ。大体俺が可哀想になる原因を作ったのはこのババアの癖に。
「ふん。あんたなんて、もっと不幸になればいいんだわ……世界一、不幸にね」
そう言ってクスクスと笑いながら、ババアはくるりと踵を返して更に暗い廊下へと向かい、ゆっくり消えて行った。
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