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君の口から出た言葉

***  遊が、教師に呼ばれたと言って行ったっきり戻って来る気配がない。  そんなに長々と説教くらっているのか?何やらかしたんだ、あいつ。またテストで悪い点取ったとか?いや、でも最近は俺が教えてるしな……。  それとも進路のこととかで何かモメてるんだろうか。  その可能性が高い。梅月先生が遊の担任に説得でも頼んで、無理に大学進学を奨められてるのかもしれない。 「写楽さん、遊ちゃん遅いっすねぇ……俺、職員室まで迎えに行きましょうか?」  パンを食い終わったクソモヒカンが言った。 「やめとけよ、ミイラ取りがミイラになる」 「別に俺は説教食らうようなことしてないっスよ!」 「存在自体が説教ものだろ」 「ええええ!?」    あ、でもそうなったら代わりに遊は解放されるだろうし、案外いいかもしれないな。 「……やっぱりお前、遊を迎えに行ってこい」 「写楽さんの思惑が見えました!!」  自分で一度止めておきながら、クソモヒカンを職員室に行かせようとしたら。 「写楽さぁん、あれ、遊ちゃんじゃないっすか?」  ぼけっと窓の外を見ていたクソ金パが、窓の外を指してそう言った。 「……は?」  それを聞いた俺はクソ金パを押しのけて窓の外を見た。……確かに窓の外のそいつは、本当に遊だった。なんか、思いっきりフラフラしながら校門に向かって歩いている。遊が歩いてきた方向を見ると…… 「旧校舎?」  あいつ、職員室に呼ばれたんじゃなかったのか? 「遊……っ!」 「あ!写楽さん!!」  俺は、ほぼ反射的に教室を飛び出した。窓から飛び降りたいくらいの気持ちだったけど、さすがに3階からは無理だから階段で降りた。  適当に靴を履いて校舎を飛び出した時、もう遊は校門の前から姿を消していた。 「遊!!」  俺も慌てて飛び出したら、何メートルか先の方でフラフラ歩く、小さな背中が見えた。 「遊!おい待て!!」  俺の声は確実に届いているはずなのに、遊は振り向かずまるで聞こえてないみたいに足取りを止めない。俺は追いつくと、グイッとやや乱暴に腕を引いた。 「おい、遊!どこに行くんだよ!お前職員室に行ったんじゃ……」 「……ぇ……?」  遊の目は赤く腫れていた。それと涙の痕。これって、さっきまで泣いてたのか?誰かに泣かされたのか?俺は遊の両肩を掴むと正面に向かいあった。 「おい、誰に何された?ブッとばしてきてやるよ。詳しい話を聞くのはそれからだ。学校に戻るぞ」  けど、遊は俯いたまま俺の方を見ない。  そして、 「……離して」 「え?」  腕を、思い切り振り払われた。 「……遊?」 「僕のことは放っといて」  何言ってんだ?今の遊を見て、放っておくなんてそんなことが俺に出来るわけないのに。それに、俺の手を振り払うなんて……今までそんなこと一度もしなかった。  本当に、一体何があったんだ? 「遊、とりあえず学校に戻るぞ」 「戻らない。放っておいてってば」 「遊、」 「もう、僕に構わないでよ!」 「遊!」 「お願いだから!」  なんでだ?朝まで普通だったのに。いや、普通……じゃなかったかもしれないけど。それでも、俺の隣で穏やかに笑っていたのに。 なんでいきなりこんな……これも、クソババアと接触したことと何か関係があるのか? 「これ以上、写楽を汚したくない……」 遊はそう言って、ポロポロと涙を零し始めた。 ――俺を、汚したくない? 「何言ってんだよ、そもそもお前は汚れてなんかいねぇだろ!」 「違う……僕は、僕は……」 「何があったんだよ?誰に何言われた?」 そんな訊き方をしたところで遊は絶対に答えないと頭では分かっていても、聞かずにはいられなかった。 案の定遊は何も答えず、涙を零し続けている。その手足はガクガクと震えていて、今にもその場に崩れ落ちそうだった。 俺は遊が倒れてしまわないように、肩を掴んでいた手を腰に回して抱きしめようとした。 すると。 「写楽さーん!」 「犬神ー!!」 俺の後方から、クソモヒカン以下三名と、何故か三年の溝内がこっちに走ってくるのが見えた。 「は?溝内?」 もしかして、原因はあいつなのか?でも、関連性が何一つ見えない。 すると溝内は俺に向かって叫んだ。 「犬神、そいつさっき倒れて思いっきり後頭部打ってるんだよ!救急車呼んだ方がいいかもしれない!」 「あぁ!?」 頭を打っただと?何で溝内がそんなことを言うのか状況は掴めないけど、その必死な表情から嘘を言っているわけではないらしい。 そして、そっちに気を取られている俺に遊がぽつりと言った。 「……僕は、人殺しなんだ……」 「――え?」 いきなり俺の両腕に負荷が掛かり、遊が気を失ったのだと分かった。 「遊!おい、遊!!」 可哀想なくらい、涙で頬を濡らしたまま。

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