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夢の中で①

*** ここは……どこ? 真っ暗で、何も見えないし誰もいない……。 ああ、もしかして僕頭の打ちどころが悪くて死んじゃったのかな? そうだったらいいな。 どうせ、卒業したらそうするつもりだったんだ。誰にも迷惑が掛からないように、全ての縁を断ち切ったあと。 誰も知らないところで、独りぼっちで……それが少し早まっただけ。 ……それでも、 最後に会えたのが写楽だったから、それだけで僕は幸せな人生だったと思うよ。 ”本当に?” 本当だよ。 ……って、今僕に話しかけたのは誰? ぐるりと周りを見渡したら…… うわっ!! 真っ黒で、目だけが妙にぎらぎらしている化け物が僕を見ていた。僕が気付くとその化け物はスウッと闇と同化して、意志を持った目だけが僕をじっと見つめていた。 * 僕は今、必死で走っている。 ――恐い、こわい!こわい!! どこまで逃げても、その二つの目は僕を追いかけてくる。その距離は全く縮まる気がしなかった。 ”どうして逃げるの?ここは、お前が望んだ場所なのに” 違う、違う!僕は独りになりたかったけど、化け物と二人になりたかったわけじゃない! 走っても走っても 暗闇に終わりはこない。 本当に、ここには僕以外の誰もいないし 何もない。 僕はこのままずっと永遠に此処で、あの化け物と二人っきりで過ごすの? ゾッ そう意識したら、初めて底知れぬ恐怖を感じた。 後ろを向いたら、やつはぴったりと僕の真後ろにくっついていて、どうしようもなく恐くて、気持ち悪くて、僕は声にならない声をあげると再び走りだした。 助けて! 誰か助けて! ”誰も助けになんか来ないよだってみんなを棄てたのはお前自身だろ?” ああ、そうだった。 僕が自ら手を離したんだった。 でも、全員を僕が望んで捨てたわけじゃない。 僕を産んだ人は僕をゴミみたいに捨てたし、最初のお父さんは僕を置いてどこかに行ってしまった。 二番目のお父さんは僕と一緒にいるためにお母さんを殺してしまったけど、結局同じようにどこかへ行ってしまった。 でも、そこから会った人たちは? 『遊』 梅月先生は、本当の親以上に僕のことを可愛がってくれた。時に厳しく、時に優しく……かけがえのない僕の恩師だ。 『遊にいちゃん』 施設の子供たちはみんな僕の弟と妹だ。あの子たちのおかげで、僕は毎日笑顔で居られる。 みんな園を離れても、どうか僕のような目には遭わないで幸せになって欲しい、といつも願っている。 『遊ちゃん』 宮田くんたちは見た目は恐いけど、初めてできた同じ年の友達だ。僕の生い立ちを知っても差別することなく、同等の人間として扱ってくれた。 『……遊』 そして、写楽……僕の大好きなご主人様。僕は写楽のためならきっと何だってできる。盗みだって、人殺しだって……。 写楽はそんなこと、一つも望んでいないだろうけど。 歪みきった僕の愛情を受け止めて、僕を安心させるために最終的に僕を殺してやる、と言ってくれた。 彼は僕の世界そのものだ。

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