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夢の中で②
”彼が世界の全て?……じゃあどうして、彼を捨てたの?”
写楽は綺麗だから、このまま僕と一緒にいたら彼も汚れてしまうから。
……それだけは嫌なんだ。写楽には綺麗なままでいて欲しい。
”それで、彼を捨てたこの世界からもどうして逃げようとするの?”
だって、恐いから。僕は、おまえという化け物が恐い。ここで永久におまえと一緒だなんて、冗談じゃない!ここが僕の世界だというのなら、消えるのはおまえの方だ!さっさと僕の前から姿を消して居なくなってよ!
”それはできないよ”
なぜ?
”だって僕は、僕自身だから”
――……!?
うっすらと闇が晴れて、化け物の姿がぼんやりと浮かび上がってくる。
その姿は本当に、まぎれもない僕だった。
”僕は今から、僕を殺すよ”
え?
”それは僕自身が望んだことだから。嫌なら必死で逃げたらいいよ”
そう言ってもう1人の僕は、どこからかナイフのようなものを取り出してその鋭い切っ先を僕に向けた。
殺すってことは、僕はまだ死んでないの?独りぼっちで死ぬのは僕が望んだことだ……でも……
何故か僕の足は、僕から必死に逃げ出していた。
*
僕は、僕に追いかけられている。
”逃げるってことは、やっぱり死にたくなんかないんじゃないか”
違う 違う!僕は死にたかった。
というか、死ななければいけないんだ。
僕がしぶとく生きのびたせいで、僕を引き取ったせいで養母は死んでしまったんだから、僕が殺したも同然なんだ。
僕は産まれてすぐに死ぬはずだった。その運命を全うしなければいけないんだ!
”じゃあ、どうして逃げるの?”
わからないよ。僕にもわからないんだ。
”正直に言いなよ、本当は死にたくないんだって。ゴキブリみたいに、しぶとく生きていたいんだって”
違う!そんなこと思ってない!だって僕はあの事件以来ずっと死のうと思ってて、それで必要以上に梅月先生に甘えたりもしなかった!
”じゃあ、どうして彼に手を伸ばしたりしたの?”
え?
”どうして、写楽に好きだって伝えたの?”
それ、は――……。
”ペットという都合のいい存在なら、簡単に断ち切れると思ったの?”
それは、そうかもしれない。
”でも彼は、僕の恋人になりたいと言った。ただのペットにあるまじき感情を惜しげもなくぶつけてきて、僕を愛してくれた”
それ以上言わないで、聞きたくない!
”それを、ずっと望んでいたくせに”
違う!
”違わないよ。じゃあどうして逃げるの?”
わからない……。
”分からないわけない。ただ、僕は自分でそれを認めたくないだけだ”
やめて!
もうこれ以上、僕を追いつめないでよ!!
”はっきり認めたらいいんだ。こんな真っ暗な世界は嫌だって。本当は、独りぼっちで死にたくなんかないんだって”
僕は、僕は……
『……遊、早く起きろよ……』
写楽の声が聞こえる……どこから?
『なあ……みんな心配してるから』
写楽、写楽、どこにいるの?
助けて!僕が僕を殺そうとして追いかけて来るんだ……。
『梅月先生、泣いてたぞ……』
梅月先生が?どうして?
ああ、僕がもうすぐ後ろにいる!助けて、写楽!
”ほら、もう正直に言えって、……もう、殺すよ”
助けて、写楽、助けて!!
僕は、本当は……
独りぼっちで死ぬのは嫌なんだ……!!
その瞬間、僕を追いかけていた僕自身は消え去って、暗闇だった僕の世界はとても眩しい白い光で溢れかえった。
そして、僕の目に飛び込んできたのは……
「遊!!」
世界で一番、愛しい人の顔だった。
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