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ひとりにしないで

 俺は遊を起こそうとして強めに揺さぶった。恐い夢なら早く覚めた方がいいから。そういえば前にもこんなことがあった。海に行った時、ビジネスホテルで……。 「ぅ……あ、写楽、写楽っ……」 「遊!?おいっ」  相当恐い夢を見ているのか、うわごとで俺の名前を呼び始めた。でも夢の中でも俺の名前を呼んでくれているとか、魘されて可哀想なのに 俺は喜びを隠せない。  ……喜んでる場合じゃねぇけど。 「遊!遊っ!」 「た、すけて、写楽……助けて……」  すごい汗だ。息も荒いし、涙も流している。このままだとまた脱水を起こしてしまいそうだ。 「遊……!」  俺は、遊の身体を起こして抱きしめた。このままこの状態が続くのは危険だから、遊が起きなかったらナースコールをするしかない。ババアと同じ薬を打たせるのは嫌だけど、それで遊が落ち着くなら……。 「はぁ、はぁ……イヤ……だ……」 「え?」  俺は、遊から身体を離した。今、嫌だって言った?……何がだ? 「遊!!」  俺はもう一度、大きな声で遊を呼んだ。  そして。 「もう、独りぼっちは嫌だ……っ!!」  そう叫んだあと、遊の黒目がちな大きな瞳が音がしそうな勢いでばちっと開かれた。 「しゃ……らく……?」  俺と目を合わせた遊はまだボロボロと涙を流し続けていて、夢と現実の境目が分からなくなっているようだった。 「おい、大丈夫か?ここは病院だ。どっか痛いとことか……あ、頭とか痛く」 「写楽っ!!」  遊は、思い切り俺に抱きついてきた。俺が痛いくらい渾身の力を込めてギュウウゥっと……昼休みに俺が声をかけた時とは正反対の反応だった。  とりあえず俺は今度は拒否られなかったことに安堵したけど、きっと今の遊にはそんなことを気にしている余裕なんて無いに違いない。 「写楽、写楽……っ!!」  まるで小さな子どもみたいに俺の名前を連呼して、俺に縋って大泣きしている。さすがに通りかかったナースや患者に気付かれて『どうされました!?』と聞かれたけど、俺も遊も答える余裕なんてなかった。 「ごめんなさい!ごめんなさい!!」 「な、に謝ってんだよ?」 「腕を振り払ったこと、ごめんなさい!!」  ああ、あれか。あれはちょっと傷ついたけど、ここまで大げさに謝ってもらうことでもない。 「写楽、捨てないでっ……!」 「え?」 「僕を独りにしないで……!!」  遊はそう言って泣き叫び、更に強い力で抱きついてきた。  は……?捨てねぇよ。捨てるわけねぇじゃねぇか。 「……っ、何の心配をしてんだよ……!」  俺も、また遊を抱きしめた。 「……君、そのまま梅月くん押さえといてね」  いつの間にか背後に近付いてきた医者俺にそう言って、遊の腕に手早く注射を打った。数秒後、遊は再び意識を失った。また、俺の腕の中で。

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