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クリスマスプレゼント

「……おはよう。久しぶりだな、写楽」 オヤジは抑揚のないロボットみたいな口調で言った。最後に話したのは、オヤジが俺に『許してくれ』と言った、あの時以来だ。 「何しに来たんだよ」 間髪入れずに言った。それ以外に言うことが無いからだ。 「親に挨拶もできないのか?」 「何いきなり来て人の親ぶってんだてめぇ」 「言葉遣いも随分と悪くなったな。たったの2年間で人はこんな簡単に変わるものなのか」 ため息交じりにそう言われて、ざわりと殺意が湧いた。俺が生きる理由を失ってこうなってしまった諸悪の根源は、自分だというのに。 「んの、クソ野郎が……!」 俺は自分が全裸なことも忘れてベッドから飛び出し、クソオヤジに掴みかかろうとした。 けど。 「……写楽……?どうしたの……」 今、目が覚めた遊の声にハッとして、ベッドから出るのをためらった。 「って……え、誰っ!?」 起きたらいきなり部屋の中に立っている恋人以外の闖入者に、遊は一気に目覚めたみたいで女みたいに身体を布団で隠した。 「とりあえず、着替えるから出てけよ!」 「話があるから、逃げるなよ」 「逃げるか!クソが」 「はあ……矯正が大変そうだな」 矯正、だと? そして、オヤジと側近は部屋を出て行き、部屋には殺気立った俺と不安げな顔をした遊が残されたのだった。 「写楽、今の人って……」 「俺のオヤジ……、犬神是清(これきよ)だ」 「ええっ!?てことは、旦那様?うわわ!僕すごい失礼な態度取っちゃったよ!!ていうか裸だし!」 遊は顔色を変えて驚いていた。別に遊の雇い主は俺なんだから、そんなに驚く必要はないと思うんだけど。 「気にすんな。いきなり息子の寝室に入ってきて失礼してるのはあっちだからな」 「でも……」 「とにかく、服着ようぜ。あとでシャワー浴びるから簡単に、今は俺の服貸してやる」 「うん……」 服を出してやっていそいそと着替える遊の口数が少ない。不安っていうか、今の状況がよくわからないからだろう。俺も同じだけど。でもきっとオヤジはロクな話をしに来たんじゃないと思う。 クソババアとの離婚が決まったとかそういう話なら有難いけど、別に俺は知ったこっちゃない。あの家を出るのは別に来年でもかまわないしな。 あーちくしょう、せっかくクリスマスの朝だっていうのにサンタクロース以外は歓迎したくないっつーの……。 「あ、そうだ写楽。こんな時にあれだけど、クリスマスプレゼントがあるんだ」 「え」 そういえばプレゼントとか何も用意してなかったな……俺。普通に忘れてた。 遊は、自分で包んだらしい紙包みを俺に渡してきた。そういえば昨日出掛ける前、俺の部屋に何かを置いて行ってた気がする。 「気に入るかどうかはわかんないけど」 「サンキュー。つーか悪い、俺からはなんもねぇから今日買ってやるよ」 「いいよそんなの!一緒にいられるだけで幸せだからそれがプレゼントだよ!イルミネーションもすごくきれいだったし……むしろ貰いすぎたって感じだもん」 「相変わらず、安上がりなヤツ」 そう言いながらも、昨日喜んでくれたのが嬉しくて、俺は遊にチュッとキスをした。 うん、やっとクリスマスの朝っぽいな。不安げだった遊の表情が少し和らいで、俺もなんだかホッとした。 「開けてもいいか?」 「う……うん」 手触りからすると……服か?俺は色々中身を予想しながらガサゴソと音を立てて紙包みを開けた。すると中からは、黒い毛糸で編まれたものが出てきた。 「何だこれ、マフラー?……じゃねぇな」 「ネックウォーマーだよ」 「お前が編んだのか?」 「うん……」 「すげぇ……」 素直にそう思ってそう言った。全体的に黒なんだけど、真ん中だけは赤や黄色の糸を使って なんかよくわからないお洒落な編み方になってる。普通に売り物みたいだった。 「プレゼントとか、何がいいのか分かんなくて……写楽、何でも持ってるだろうから」 「手作りの物とか俺、生まれて初めてもらう」 「そんなことないでしょ。バレンタインとか手作りのものもあったんじゃない?」 「そんな危険なもん、今までの俺が食わせられるわけねぇだろ、食わねぇけど。特別なのはお前の弁当だけだよ」 「……!」 そして俺は、スポッと頭からそのネックウォーマーを被ってみた。 「似合ってるか?つーか、糸も結構いいやつ使ってねぇかこれ」 「ば、バイト代でね。だって写楽にあげるのにそんな安い毛糸とか使えないもん」 「……ありがとな」 なんか少し……いや、かなり感動してしまった。遊はかなりケチなハズなのに、俺のために奮発してくれたというのがなんとも……。 「写楽、あんまりマフラーとかしてないから嫌いなのかなって思ったんだけど」 「別に、巻くと落ちてくんのがめんどくせーだけ。これなら落ちてこねぇし、うん、使うわ」 「使ってくれたら、僕も嬉しい」 そう言ってはにかんで笑う。俺もちゃんとしたプレゼントを用意しておけばもっとこんな笑顔を見れたのかって、今更かなり後悔してしまった。 「遊……お前まじでかわいい」 「えっ!?」 「ちくしょー」 なんか悔しくてたまらなくなって、とりあえず俺はまた遊を抱きしめた。

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