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父の話①
「写楽、そろそろいいか?」
「ゲッ……」
忘れてた……いや、本気で忘れてはいないけど出来たら忘れていたかった。でもしょうがないからさっさと話を聞いて、さっさと出て行ってもらうしかない。そして今日も遊とデートをする。……プレゼントに、服でも一式買ってやろうと思って。
とりあえず貰ったネックウォーマーは脱いで、ベッドへと座りなおした。
「ぼ、僕お茶淹れてきます!」
「ああ、いいよ梅月くん。お茶を飲むほどゆっくりした時間は取れないから」
「えっ?」
遊が驚いたのは、オヤジが自分の名前を知っていたからだろう。俺も吃驚した。
……何で、遊の名前を知ってるんだ?
「君には写楽がいつもお世話になっているね」
「い、いえ!こちらこそお世話になってます!僕のしてるお世話なんて大したことないです!」
「そんなに謙遜しなくていいよ」
オヤジはビジネスの時のような、人の良さそうな笑顔で遊に言う。俺に向ける顔とは大違いで、かなり胡散臭い。俺はギロリと奴を睨みつけた。大体、俺と遊が裸で同衾してるところを見てるのに、そこを何も突っ込まないところが既に怪しい。
「……遊、伊織と華乃子と遊んでてくれるか」
「え?」
「どうせロクな話じゃねぇし、お前まで聞く必要はねぇだろ」
「う、うん……」
家族間の醜いゴタゴタなんて、いくら恋人でも見せるようなもんじゃない。遊が傷付くかもしれないし……。
「あ、いいんだよ梅月くんも居てくれ。君にも関係のない話じゃないから」
「は?」
遊にも関係ある、だって……?
「同じ話を繰り返すのは面倒だろう。変に話が拗れるのも嫌だし。それに写楽は君に言わないかもしれないからね」
「はあ!?」
クソ野郎、一体何を話す気なんだよ……っ!
「まあ、簡潔に話そう。私もすぐあっちに戻らないといけないからね。日本で色々済ませないといけない用事があるんだ」
「あっち?」
オヤジが今居るところなんて、興味も無かったから聞いたこともない。ただ、外国なのはなんとなく分かっていたけど。
「イギリスだよ。写楽、お前にも3日後一緒に来てもらうから、今日から発つ準備をしておきなさい」
「は!?」
オヤジは驚く俺を無視して、淡々と続ける。
「年越しは向こうでお祖父様も一緒に行う。そしてお前は4月からは向こうの学校に編入して、大学も向こうで私の指定したところを受けて貰う。その後は本格的に私の元で色々なことを学んで貰う予定だから、そのつもりでいなさい」
「はああ!?何寝惚けたこと言ってんだよ!!」
寝耳に水とは正にこういうことを言うんだろうか。来年からって、大学って、その後って、何で俺が外国なんかに行くことになってるんだ!?しかもそんな、当たり前みたいに……本気で意味がわからない。
「何をそんなに驚いてるんだ?私の息子はお前しかいないんだから、お前が犬神家を継ぐのは当然だろう。そこにいる梅月くんから詳しいことは聞いてるはずだって小山から報告を受けているよ」
「え……?」
遊が、何だって……?それに、小山……?
俺がゆっくりと遊を振り返ると、遊は真っ青な顔をして俺を見つめていた。
「遊……?お前、何か知ってんのか?」
「あ……そのっ」
「遊、」
思わず、詰め寄った。だって俺のことなのに俺が知らなくて、遊が知ってるなんて……
『だって笑えるじゃない。あんたのことなのに、あんただけ何も知らないなんてね!』
あの、ババア……。
「梅月くんはお前に話していないようだな。じゃあ私から言うよ。写楽、伊織と華乃子は私の子どもではない。玲華と小山の間でできた不義の子だ。だから2人とも血縁上はお前の弟でも妹でもない、赤の他人なんだよ」
「!?」
頭を殴られたみたいな、衝撃だった。
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