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逃亡開始

「じゃあ遊、行くぞ」 「え、そこから!?」  俺が出ようとしたのは、縁側だった。ざっと周りを見渡して、誰もいないことを確認する。 「玄関はオヤジの部下が張ってるって言っただろ」 「で、でも靴がないよ?」 「お前のは後で買ってやるから、とりあえずそこの突っ掛けでも履いとけよ」  俺は前に買って部屋に置いてたスニーカーを履いて、コソコソと出ようとしたら…… 「あー!しゃあくにーたー!ゆう!」 「っ、華乃子?」  庭に華乃子が1人で現れて、俺と遊を見つけると嬉しそうに近づいてきた。 「どこいくのぉ?かのもいっしょいく!」 「華乃子、俺と遊はちょっと遠くに遊びに行くんだ。お前は連れていけない」  着てるのが制服じゃないから、行く場所が学校じゃないってのは理解しているらしい。 「なんで!かのもいきたい!」 「ダメだ」  俺が少し厳しめに言ったら、華乃子は顔を歪めて激しく泣きそうになったので、俺は華乃子が泣き出す前に顔の近くまで抱き上げた。 「……にーた?」  急に抱き上げられたことで、キョトンとした顔が可愛い。 「オミヤゲ買ってきてやるよ。おまえと伊織の分。……すぐ帰ってくるから、それまでイイ子にして待ってろ」 「おみやげー?おかし?」 「お菓子でもなんでも。何がいい?」 「かの、ぬいぐるみがいい!くまさんの!」 「クマな、分かった」  再び庭に下ろして、頭をポンポンと撫でたら華乃子はご機嫌な笑顔になった。 「にーた、ゆう、いってらっしゃい」 「おう」 「……華乃子ちゃん。ばいばい」  絶対、迎えに来るからな。……たとえ血が繋がってなくたって、伊織と華乃子は俺の弟と、妹だから。  俺と遊は誰にも見つからないように、バイクの置いてある裏のガレージに来た。意外にもそこには誰もいなくて……でもぐるっとバイクの全体を見渡すと、ケツの下のところに発信器みたいなのが付いていた。 「……こんな目立つところに付けてんじゃねぇよ、馬鹿にしてんのか」  俺はそれを床に捨てると、思い切り踏みつぶした。 「何なの?それ……」 「GPSだよ。ムカつくぜ……。あ、遊。お前俺が前にやったケータイは置いていけよ」 「うん、置いてきたよ」  俺も自分のスマホは部屋に置いてきた。あんなの持ってたら一発で居場所がバレてしまうからな。 「ほら、さっさとメット被れ」 「うん……」  遊をバイクの後ろに乗せてエンジンを噴かす。そしたらやっぱり気付かれたみたいで、オヤジの部下のスーツの男が二人、慌てた顔でガレージに入ってきた。 「写楽坊ちゃん!」 「いけません、旦那様が……!」 「うるせぇ邪魔だ!轢き殺すぞ!!」  俺はそう言ってバイクを急発進させ、わざとぶつかるように奴らの真横スレスレを走りコンクリートに転ばせてやった。 「クソ!追いかけろ!」  車で追いかけてくる気か。でも、無駄だ。車は通れない路地ばっか通ってやっからな!  遊はバイクから振り落とされないよう、痛いくらいに俺の腰と背中にしがみついていた。それはまるで”絶対に離れないから”という、遊の意志表示みたいだった。

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