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小旅行気分
*
……どれくらい走っただろうか。住宅街を抜けて、学校を過ぎて、住んでいる町を過ぎて、いつの間にか見知らぬ街の中を走っていた。
「しゃ、写楽……」
いくつかの信号で止まったところで、遊が俺の服の裾を引っ張った。
「ん?」
「あの……靴を……」
「あ、悪ィ!忘れてた」
靴下を履いているとはいえ、突っ掛けの足元だった遊の足はすっかり冷え込んでいた。とりあえずまずは遊の靴を買うのが先決で、俺は1番近くのモールに行くことにした。
………一応、オヤジの部下は撒いたみたいだし。
朝飯も食ってないから腹が減った。今はとっくに昼も過ぎている時間帯だった。モールに着き、俺はできるだけ目立たない場所にある裏の駐車場にバイクを停めた。
「腕も疲れただろ。歩けるか?」
「歩けるよ、大丈夫。それにやっぱりバイクって風が気持ちいいよね!」
遊は、笑いながらそう言った。
「……今は寒ィばっかだろ」
朝からいきなり他人のお家騒動に巻き込まれて頭が混乱してるだろうに、それを俺に悟らせまいとしているらしい。これから先、具体的にどうすればいいのか全然分からなくて不安しかないのに。
「ね、靴買いに行こう?」
遊は、俺の手を引いてさっさと歩き出した。
「………」
案外、不安な顔をしているのは俺ばっかりなんじゃないかって思った。……遊はドMだし、普通に俺より打たれ強いのかもしれない。
6000円くらいの靴を買ってやろうとした俺に、遊が『もっと安いのでいい!!』って必死で言うからそうした。金はあるんだから別に遠慮しなくていいのにと思ったけど、今はカードが使えないからゼータクできなかったことを思い出して、少し焦った。
いや、分かってはいたけど分かってなかったっていうか……金がないという事態が俺は生まれて初めてだから、受け入れるのが少し難しいようだ。
「お昼ごはんどうする?」
「ん、どっかの飯屋に……」
「フードコートだね!」
「……」
とりあえず、遊の感覚に合わせた。多分それが正解なんだろう。
*
冬休み初日ということもあり、フードコートはかなり人が多くてまずは席を探すのに苦労した。そして俺達が食べたのは、チェーン店のハンバーガー。
「おいしーね!ハンバーガー!」
「こないだ食ったばっかだろ。まあ、不味くはねぇけど」
「ふふっ」
遊はなんだか少し楽しそうだ。やっぱりこいつ神経が図太いな……。
食事のあとは、バイクだと冷えるから遊の手袋も買って、俺たちは早々にモールを後にすることにした。長居したら捕まりそうだからだ。
「……ねぇ、これからどうするの?」
「とりあえず、行けるだけ遠くに行く。ホテルは泊まれねぇだろうから、今夜はネカフェかどっかに泊まるか」
「ネットカフェって泊まれるの!?」
「俺もそんなに行かねぇけどさ、一応シャワーとかも付いてんだぜ」
「へえー!」
あんまり使いたくはないけど、背に腹は代えられないってやつだ。ネカフェのそばに温泉でもあればいいんだけどな。温泉っていうか……銭湯?
「……もう行くぞ。乗れ」
「はーい」
俺は、北の方は雪が降ってて寒そうだから、という単純かつ明快な理由で南を目指すことにした。こんなバイクでどこまで行けるかわからないけど、逃亡じゃなくて小旅行だと思えばいいんだ。冬休みを利用した、よくあるやつ。
遊と小旅行……うん、なんか少しだけ楽しい気がする。
少しだけ、だけど。
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