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苦手なモノは苦手

 再びバイクを走らせて、途中でガソリンを入れて、休憩して……そんなことを繰り返してたら、あっという間に辺りは暗くなっていた。 *  グウウゥ……と、背中で遊の腹の虫が鳴いたのを聞いた。 「あ?腹減ったのか?」 「ん、少し……」 「まあ、疲れたよな。今日はここら辺でメシ食ってネカフェ探すとすっか……」  スマホがないから、目的地を探すのがすごく不便だ。でもファミレスとかネカフェくらい どこにでもあるだろう。 「写楽、晩御飯はうどんにしよう!安いし」 「おう」  遊の言う通りに先にうどん屋を探して、俺は天ぷらそば、遊はかけうどんを頼んだ。 「……ほら。海老天1本やるよ」 「え、いいの?ありがとう!」 「別に……」  だって俺だけ天ぷらとか食ってて少し罪悪感が……そんなに高くないってのに!こういうところがダメなのか、俺は。だって何も具が入ってない蕎麦とかうどんとか最初から食う気にもならないだろ! 「別に気にしなくていいのに」 「べっ、別に気にしてねぇよ!」  何でバレてんだ……。 「ふふっ。エビ美味しいね!」 「……まあまあだな」  無いよりマシって程度だ。だけど遊が幸せそうに言うから、めちゃくちゃ美味い海老を食ったって気に……  なんねぇな。舌は誤魔化せねー。 「食ったらすぐネカフェ探すぞ」 「まずはお店の人に近くにあるか聞こうよ」  ……なるほど。  なんかいつになく遊の方がシッカリしてて、俺はこいつの意外な顔を見た気がした。 「じゃあ、そろそろ行くか」 「うんっ」  俺が会計をしている際に、遊はバイトらしい若い男に話しかけてこの近所にネカフェがあるのかどうかを尋ねていた。俺の方が早めに済んだので先に店を出て、その少しあとに遊が出てきた。 「聞いてきたよ!えっとね、ここからまっすぐ二キロくらい先に個人経営の店があるんだって」 「おー、サンキュ」 「でもね、すごく汚いらしいよ……泊まるならゴキブリには気を付けてって言われた」 「ゲッ」  ゴキブリ、だと……!?そんなもの俺の家では見たことないけど、教室だとか道端で見るだけでも鳥肌の発狂モノだ。 「ネカフェは中止だ。やっぱりホテル探すぞ!」 「えー、せっかく聞いたのに。それにゴキブリなんて今時どこにだっているよー?」 「やめろ、俺の前でゴッ……言うな!それに俺んちにはそんなものはいねぇ!!」 「えー……」  わざわざ人に注意するくらいゴキブリが出る場所に泊まるなんて、死んだ方がましだ。虫ごときで死にたくはないけど!! 「とにかくネカフェはヤメだ!よく考えれば足伸ばして寝れねぇし、ビジホ探すぞビジホ!泊まれなきゃファミレスで一夜明かす!!」 「まあ僕は、どこでもいいけどね」  寝るのにどこでもいいだなんて、俺には到底できないトンデモ発言だ。なんだか少し、遊を尊敬の眼差しで見てしまった……。  俺は再びバイクを走らせて、ゴキブリが出るという噂のネカフェを発見しつつも横に流し、ビジネスホテルを探すことに集中した。ネカフェと違ってすぐに何軒か見つかったが、その中でも最安の宿を探さなければいけない。勿論、あんまり安いとこはそれはそれで俺は無理なんだけど……。  遊にそのことを伝えたら、 「じゃあもう、次見つけたところで良くない?」  って、あっさり言った。 *  そんなわけで、 「……今夜はここに泊まるぞ」 「うん!」  大きくもないが小さくもない、何の変哲もないビジネスホテルを発見して、駐車場の目立たない場所にバイクを停めた。 「泊まれるかなぁ……」 「客少なそうだし、多分大丈夫だろ。でも俺は名前は一応偽名を使う。クソモヒカンの名前を借りるぞ」 「い、いいのかなぁ……」  別にいいだろ。つーか…… 「あいつの本名ってなんだっけ?」 「!?」  あだ名でばっかり呼んでるせいか、そいつの本名が分からなくなることってあるよな。

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