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ポジティブな君

 前と同じように、俺がフロントに行った。私服だからなのか堂々としすぎてるからか、特に何も咎められることもなくフロント係はあっさりと部屋のキーをくれた。あのオヤジのことだから、全国のホテル業界に手を回してると思ったんだけどな……本名を使ったらヤバかっただろうか。 「行くぞ、3階の角部屋だってよ」 「はーい」 *  もう時刻は21時を回っている。なんかいきなりすっげぇ疲れがドッときて、俺はベッドを見るなりダイブしてしまった。 「あー……疲れた……」  やっぱネカフェなんかに泊まらなくてよかった。布団があるのとないとじゃ全然違う。 「長旅運転、お疲れ様」  遊も俺の隣に腰を下ろしてそう言った。 「お前もずっとしがみついてて疲れただろ」 「ちょっと寒かっただけ。ずっと写楽に抱きついてられるから嬉しかったし、それに楽しかったよ?」 「そーかよ」  相変わらず可愛いこと言うなコイツ。そういえば今日ってクリスマス本番だったっけ……すっかり忘れてたけど、結局俺ってコイツに何もあげれてないな。朝から嫌な思いをさせただけだ。 「僕、お風呂にお湯溜めてくるね」 「遊」 「うん?……わっ!」  俺は離れていきそうだった遊の腕を握って引き留め、そのまま俺の方へと引き寄せた。冷え切った服ごと、ぎゅっと強く抱きしめる。 「しゃ、写楽!?」 「……巻き込んじまって、ごめんな」  昨日までは、こんなことになるなんて思ってもみなかっただろう。本当に悪いと思って 俺は遊に謝罪した。前と違って謝罪の言葉がすんなりと出るのは、俺が変わったからだろうか。  すると俺の腕の中で少しアタフタしてた遊は大人しくなって、ぎゅっと抱きつき返してきた。 「……ううん。写楽は何も悪くないよ。全然不安じゃないって言ったらウソになるけど……」 「最悪のクリスマスになったろ」 「クリスマスがいつも最高だとは限らないよ?」 「……お前は、いつもすげぇよな」  ポジティブな遊の言葉に感心して、俺はそっと身体を離すと目を合わせてキスをした。 「……シャワー浴びたら、セックスしようぜ」 「え、疲れてない?」 「お前が頑張って動けばいいだろ。……っつか、コレで使う体力は別だよな」 「ふふっ、そうだね。じゃあ、ガンバリマス」  そして遊は「お湯溜めてくる」と再び言って、俺から離れていった。俺ものっそりと身体を起こすとコートを脱いで、お茶でも淹れることにした。インスタントのやつくらいは俺にだって淹れられるからな……。 「って。ポットお湯湧いてねぇじゃん」  さっきまでホテルだというだけで感謝していたのに、安ホテルめ、と軽く舌打ちしてしまった。

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