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いつかこんな日が来ると思っていた
不安じゃないと言ったら嘘になる……。
それは、僕の本心だった。昨日が本当に楽しくて幸せだったから、もしかしてこれは夢なんじゃないかなって何度も思った。そのうち、大きなしっぺ返しが来るんじゃないかなって。まさか、次の日にそれが来るなんて思ってもみなかったけど。
バイクに乗ってる間中、旦那様に言われたことがぐるぐると僕の頭の中を巡っていた。
『二人とも、将来をちゃんと考えているわけでもあるまい。どうせどうにかなると思って一緒にいただけだろう』
反論なんか一つもできやしない。だって写楽は犬神家の血を引き継いだ生粋のお坊ちゃまで、対する僕は親すらもいない一般庶民。その上男だから、シンデレラにもなれやしない。認めて貰える要素なんて一つも無い……そもそも認めて貰えるなんて思うことすらおこがましいって感じだ。
ペットならまだしも、恋人だなんて……。
「本当に、笑っちゃうよね」
ドドドド、と勢いよく出てくるお湯を見つめながら、僕は思わず口に出してしまっていた。
『君なら分かるよね?梅月くん』
分かりたくなくても分かってしまう。というか、考えなくても分かる。僕は写楽と共に生きていける人間じゃないってこと。
『ずっと一緒にいようね』
そう何度もしつこいくらい口にしていたのは、いつかこんな日が来るんじゃないかって心のどこかで思っていたから……僕はそれが恐かったから……。
僕の言葉なんかで、きみを繋ぎ留められるわけがないのに。
「……遊?何してんだよ」
「あ、写楽」
僕がなかなか戻って来ないから、写楽が様子を見に来た。
「茶、淹れたからこっち戻って来いよ。風呂は後で様子見に来ればいいだろ」
「え、お茶!?そんなの僕がするのに!」
「別に、俺だってインスタントの茶くらい淹れられるっつーの」
そういう意味じゃなかったんだけど……でも、嬉しい。インスタントだってなんだって。
お風呂のお湯は出しっぱなしにして部屋に戻ると、備え付けの机の上にはあったかそうなお茶が二つ用意されていた。そして僕らはお茶を持ってベッドの上に腰を下ろした。
「……こういうホテルの机ん中って、必ず聖書が置いてあんのはなんでだろうな」
「え……そうなの?」
「前行ったホテルの部屋にも置いてあった」
「へー」
そうなんだ、知らなかった。熱心なクリスチャンの人なら、聖書とか自分で持ってそうだけどなあ。なんでだろう、暇つぶしのためなのかなぁ?
そんな他愛ない会話を交わしながら、写楽の淹れてくれたお茶をゆっくりと飲んだ。暖かいお茶は、疲れて冷えた身体の芯まで温めてくれる気がした。
「……心配すんなよ、遊。俺は絶対オヤジの言うとおりになんかならねぇし、お前と別れたりもしねぇからな」
「……うん」
「これからのことは、オヤジが向こうに帰ってからゆっくり考える。あーでも、もう退学届は勝手に出されてそうだな……」
「え!?」
写楽……学校辞めちゃうの?
「俺が勝手に西高に行ってもオヤジが今まで何も言わなかったのは、最初から俺に卒業させる気なんかなかったからなんだろうよ。クソが……」
「………」
本当に、そうなんだろうか。それだと本当に写楽は、旦那様の都合のいい存在みたいで……お金持ちの家ってどこもそうなのかな。子どもは親の道具なの?特に、写楽の家のレベルだったら……僕には想像もつかない。
「……僕、お湯見てくるね。僕は時間かかるから写楽が先に入って?」
「ん、じゃあそうさせてもらう」
一緒に入るって選択肢もあるんだけど、写楽の家のお風呂と違ってすごく狭いから別々の方が効率がいいだろうと思ってそう言った。今からセックスするなら、僕は色々準備しないとだしね……。
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