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ゆるやかな逃避行

* 「2名様素泊まりで、12500円になります」 「………」  ビジネスホテルって、結構高いんだなぁ……。写楽は平然とした顔をしてお金を払っていたけど、今残りのお金はどれくらいあるんだろう。僕の手袋や靴なんて買わなければ良かったかも……。  ホテルを出たところで、朝ごはんの相談をした 「朝メシはコンビニで買おうぜ」 「コンビニは高いから、24時間営業のスーパーに行こう!おにぎりとか安いし」 「……おう」  なんたって僕、スーパーで働いてたからね!別に自慢でもなんでもないんだけど。コンビニだと高くてびっくりしたことがあるから……。 「帰りのガソリン代とかメシ代も入れて考えたら、今夜はホテル泊まるの無理かもな」 「どうするの?今夜こそネカフェ?」 「……」 「今冬だし、ゴキブリなんて早々出ないよ!出たら僕がやっつけてあげる」  園だとたいてい明良がやっつけてくれるけど、僕だって別に怖いわけじゃない。スリッパか新聞紙を丸めて潰すだけだし。それでも写楽はすごく嫌そうな顔をしていたけど、諦めたのかふうっとため息をついて―― 「……じゃあ、今夜こそネカフェな」 「うん!」  納得してくれたみたいだ。そして僕らは、昨日と同じようにバイクに跨った。 「追っ手みたいなの、来てないかな?」 「ん……来てねぇっぽい。多分だけど」 「高級車には注意しなきゃね!僕はよく分かんないけど」 「そうだな」  ドラマみたいに途中で拉致られたりするのを想像していたんだけど、特に何も起こらないから、僕たちは昨日よりも落ち着いた気持ちで逃避行を再開した。  とは言ってもお金は無駄にできないから、数時間ごとにコンビニやガソリンスタンドを見つけるたびに休憩して、お昼ご飯を食べて、バイクに跨って……それを繰り返していたら、またあっという間に夜が来た。 *  特に目的は無い旅だから、高速道路は使わずにずっと下道を通ってる。検問にあったら嫌だからと写楽は言うけど、そこまでするものなのかなぁ?  そして僕らは、いつの間にか愛知県に来ていた。今夜は名古屋市内に泊まる予定だ。 「名古屋といえば……なんだろう?」 「ういろうと味噌煮込みうどんじゃねぇの?あと名古屋城、トヨタ……は豊田市か」 「写楽、物知りだね!」 「この程度で褒められるとなんか複雑だな……」  だって僕、何も思いつかなかったよ。修学旅行はいつも不参加だったし。だから今回は僕が今まで行ったことのない色んな県に行ってるんだけど、観光なんてせずにただ通り過ぎるだけだから、今度はちゃんと計画を立てて来てみたいなぁと思った。勿論、写楽と二人で。 *  駅にバイクを停めて、僕らは名古屋の街を歩いた。晩御飯は安い食堂で簡単に済ませた。少し味が濃いおかずは、とても美味しかった。 「おい遊、比較的綺麗そうなネカフェ探せよ」 「昨日よりもたくさんあるねぇ。……でも写楽、チェーン店が多いみたいだよ?」 「チェーン店って綺麗なのか?」 「それなりなんじゃないかなぁ」  もし汚かったら、お掃除頼めばいいしね。僕らは地元でもよく見かけるチェーン店のネットカフェに入った。 「……え、朝までのパックって12時からなの?」 「だとよ。あと2時間はあるけどどーする?」 「どうしようか……」  あと2時間外で時間を潰せばいいんだけど、僕も写楽もかなり疲れていて、とてももう歩き回ったり遊んだりする気分じゃなかった。だから2時間は普通料金で入って、そのあとは6時間パックということにした。またお金を無駄に使っちゃうけど、しょうがないよね。  フラットタイプの場所を選んで、枕代わりのクッションや毛布を確保した。あと、飲み放題だっていうからジュースもね。  なんだか僕が思っていたより快適そうだった。エアコンが強いけど。 「遊、先にシャワー借りてこいよ。今日は荷物番しなきゃだから一緒には入れねぇけど」 「僕が先でいいの?」 「いーよ。つうか俺、こういう所で知らない奴の後に入るのが嫌なんだよ」 「なるほど」  写楽って、意外と繊細なんだなぁ……この旅を通して分かったことなんだけどね。旦那様が写楽に『庶民の暮らしなんか出来ない』って断言したのもなんだか分かる気がする。無理とは言わないけど、慣れるまで大変そうだなぁって思った。 *  シャワーを浴びて戻ると、写楽は何冊か漫画を持ち込んで読んでいた。 「それ、面白いの?」 「普通。……まあまあ面白いかもな」 「僕も読んでいい?」 「おう」  写楽は僕と交代でブースを出ていった。僕は普段漫画とかほとんど読まないから、なんだか新鮮だ。ネットカフェに入るのも初めてだし。  ああ、でもなんか横になったら眠くなってきたなぁ……。  結局僕は写楽が読んでいた漫画を一ページも読み終わらずに、そのまま寝てしまった。

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