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三日目の朝
*
少し寝苦しくて、ふと目を開けた。目の前には、端正な写楽の寝顔がある。僕を抱き枕にしていたみたいだけど、熟睡してるみたいでその腕は緩んでいた。
僕、いつの間に寝ちゃってたんだろう……パソコンで時刻を確認したら、今は夜中の2時だった。
(トイレいこ……)
空気が凄く乾燥してるから、喉も乾いている。明日起きたら喉が痛くなりそう。マスクも買っておくべきだったなぁと思った。僕は別にいいけど、写楽が辛そうで……。
トイレを済ませたあとはドリンクバーに行って、ウーロン茶を持って戻ると何故か写楽も起きていた。
「あれ?写楽起きたの」
「どこ行ってたんだよ……」
周りに聞こえない程度の小声で話す。
「トイレだよ。ついでにウーロン茶も持ってきたよ」
「飲む」
「はい、どうぞ」
写楽は立ったままの僕からウーロン茶を受け取ると、僕の分も残して一気飲みした。そしてコップをパソコンの台に載せると、おもむろに僕に手を伸ばしてきた。
「ん」
「ん?」
写楽の意図がよく分からない……。それでも近くに行こうと靴を脱いで、膝を付いた。
「わっ?」
そしたらいきなり腕を引っ張られて、強く抱きしめられた。やばい、今の声少し大きかったかも……周りの人起きてない?
「どこにも行くんじゃねーよ馬鹿……心配しただろ……」
「と、トイレだよ?あとドリンクバー」
「俺を起こしてけっつの……。マジ、起きたらお前いなくてびびったし」
「ご、ごめんなさい…」
「……」
「写楽?」
あれ?返事がない。もしかして写楽、寝ぼけてたのかな?そんで、また寝ちゃった?
どうやら、そうみたい。僕の恋人は、僕を捕まえて安心したら再び寝てしまったようだ。……なんて可愛いんだろう。
「……おやすみ、写楽」
僕もなんとか横になって、毛布を自分と写楽の身体に掛けると再び目を閉じた。
*
「あー……喉が痛ぇ……なんかイガイガする」
(やっぱり……)
朝になり、再び目が覚めた写楽の第一声は少し枯れ気味の声で、予想していた文句を言った。今度来るときは絶対にマスクを持参しなくちゃね。
「身体も痛ぇ……」
「やっぱりホテルとは違うよね」
「足も思い切り伸ばせなかったしよ……」
「足が長いと大変だよね」
写楽の言葉すべてにニコニコしながら返すと、写楽は少し困った顔で笑った。
「……とりあえず、コーヒーでも飲もうぜ」
「うん」
ここを出る時刻まで、あと30分だ。僕と写楽は二人でドリンクバーに行き、熱いコーヒーを淹れた。インスタントで、しかも自販機の中で淹れるコーヒーなんて珍しくて、僕はまじまじとその工程を観察してしまった。
他にも泊まっていたお客さんはちらほらといて、ここで生活してるみたいな人の姿も見かけた。ジャージを着て首にタオルを巻いて、歯ブラシをくわえている。彼らはネットカフェ難民っていうんだっけ……前にニュースで見たことがあるけど、本当にいるんだなぁ。
「遊、あんまキョロキョロすんなよ。因縁つけられっぞ」
「あ、ごめんなさい」
「まあ、その時は俺が三倍返しにしてやっけど」
「それはダメだよ」
くふふ、と笑った。
「ね、朝ごはんどうする?」
「朝マックでいいんじゃね。今日一日乗り切れば、家に帰れるしな」
「あ、そうか」
今日は、旦那様が写楽を迎えに来ると言った三日目の朝だった。今日捕まらなければ、僕らの逃亡は成功したということになる。
……でも、今回は逃げ切れたとしてもそれですべて終わりなわけじゃないだろう。少なくとも、旦那様はそんなつもりは無いだろうし。
僕は、どうしたらいいんだろう……。
「準備したら、出るぞ」
「うん」
僕らは顔を洗って歯を磨いてトイレを済ませてから、ネットカフェを出た。
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