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安堵
カッ
「!?」
いきなり外側から強い光に照らされて、眩しくて思わず目を閉じて遊を抱きしめる力が無意識に強くなった。光の正体は、
(車の、ライト……!?)
一体、誰が…...いや、誰でもいい。早く助けを求めないと、遊が死んじまう。
バンッと力強く車のドアの閉まる音が聞こえて、その数秒後、本殿の戸がガラリと開けられた。
「……!」
逆光になっていて、顔は全然分からない。けど、俺はその人物が誰なのか考えなくてもすぐに分かった。
「……自分の愚かさと無力さが少しは身に染みたかい?写楽」
「……オヤジ……」
嫌味なくらいスーツをビシッと着こなした、細身のシルエット。俺だけに向ける、神経質そうな声と外で降る雪に負けないくらい、冷たい視線。全て大嫌いなはずなのに、何度も何度も恨んだ末、もうどうでもいいと無関心にまでなったのに。
なのに……
何で俺は今、こんなに安堵しているんだ。
「その様子だと、相当キツかったみたいだな」
「……ッ」
そんな自分が悔しくて情けなくて、色んな感情が綯い交ぜになって俺はますます涙を溢れさせた。きっとオヤジは俺の泣き顔なんて見るのは初めてだろう。笑顔も見せたことは無いけれど……そんなことは何の強がりにもならない。
そしてその後も数台の車が停まる音がして、オヤジの後ろからは救急隊みたいな大人が次々と現れた。
「君、大丈夫か!?」
「こっちの子は意識が無いぞ!」
俺は呆然としていて、半裸の遊が俺から引き離されて担架に乗せられてさっさと運ばれていくのをただ見ていた。俺の身体も、救急隊の人が持ってきた暖かい毛布で包まれた。そのまま救急車に乗せられそうになったけど、それはオヤジが阻止した。
「一応救急車は二台呼んでおいたが、お前の方は大丈夫そうだから私の車に乗りなさい、今から梅月くんを地元の病院に連れて行く」
「……」
俺はその言葉に逆らう元気もなくて、グイッと背中を押されて外に出て、言われるままにオヤジの乗ってきた車に乗り込んだ。
車は計四台来ていて、その内の一台はオヤジの乗ってきた車、二台は救急車、そして最後尾に付いてきた軽トラックの荷台には、途中置いてきたはずの俺のバイクが積まれていた。
俺はそれを見て、オヤジに訊いた。
「……ずっと付いてきてたのかよ……」
「そんな暇じゃないさ。……でも、そうだな。山に入った辺りで心配になって追いかけてきた」
「GPSは、家出る時に壊したはずだ……」
「あれはフェイクだよ。あんな目立つところ一箇所だけに着けるわけないだろう?」
「……クソが」
「むしろ感謝して欲しいくらいなんだが。お前のお気に入りのバイクだってわざわざ保護してやったんだぞ」
「チッ……」
なんか、オヤジと普通の親子みたいな会話をしているのが気持ち悪くて、俺は舌打ちをしたあとはずっと黙っていた。
遊は大きな救急病院じゃなくて、地元の小さな病院に運ばれた。どうやら俺たちはもう少し頑張って歩いていれば、集落に辿り着けていたらしい。遊は点滴を腕に入れたまま、病院の処置室に運び込まれていた。オヤジが救急隊の人に遊の状態を聞くと、
「高熱でひどい脱水症状を起こしてますが、命に別状はありませんよ」
と返ってきて、俺はほっと胸を撫で下ろした。そして安心したら、突然グウ~と腹の虫が鳴った。その音を聴いたオヤジが俺に尋ねた。
「夜は何も食べてないのか?」
「食ってねぇ」
「……部下に何か買ってこさせるから、少し待ってなさい」
「別に、いらねぇよ」
本当に食べたくないわけじゃなくて、ただオヤジに甘えたくないだけの痩せ我慢だった。しかし俺がそう言っても、オヤジは部下の男に何か食べ物を買ってくるように頼んでいた。
「……遊んとこ、行ってくる」
俺はそう言って、勝手に病院の処置室に入った。バタバタと騒がしくしてるわけじゃないから、別に構わないだろうと思った。
案の定、処置室に居たのは年配の医者と看護師が二人だけで、そして奥のベッドには遊が静かに横たわっていた。
「遊……」
フラフラと近づいて行くと、看護師が俺に近付いてきて関西訛りで言った。
「今は寝てるだけだから大丈夫よ。救急隊の人が解熱剤を早い内に挿れてくれたみたいだから熱もだいぶ下がってきてるし」
「そうですか……良かった」
「しばらくこの子の様子見とく?お友達が心配よねぇ」
「……はい」
看護師は丸椅子を持ってきてくれて、遊の横に置いてくれた。もしかすると追い出されるかと思ったけど、全然そんなことも無くて……。
落ち着いた様子の遊の顔を見下ろすと、また涙が出てきそうだった。
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