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愛と依存
互いに強く抱きしめ合ったあと、俺たちはその場に崩れ落ちた。
「嫌だよ写楽、行かないで!!僕を置いてかないで、離れていかないで!!お願い、嫌だよぉ……っ!」
「遊……」
遊は俺の首に手を回して必死に縋りつき、泣きながら懇願を繰り返した。俺は何も言えず、ただ黙って抱きしめてやることしか出来ない。
離れたくないのは俺も同じだ……けど、どうしたら一緒に居れるのか、その方法が今の俺には何も思いつかないんだ。
だから、もうその場凌ぎの無責任な言葉は言えなかった。
「どうしても行くんなら、僕を今ここで殺して!!」
ほら、お前は絶対そう言うと思ったから。
「馬鹿野郎、んなことできっかよ!」
「僕を置いていくなら同じことだよ!僕は、君のいない世界じゃ生きていけないんだ!……っ傍にいたいよ、写楽、好きだよっ……!」
「遊……」
俺だって好きだ。お前のこと、愛してる。
だって言ったもんな、俺にはお前しかいないんだって。
お前も、俺しかいないんだって。
それなのに、何で俺たちは離れないといけないんだろう……
なんで俺は、犬神家なんかに生まれちまったんだろう……
「いい加減にしなさい」
胸が張り裂けそうなくらいに、俺たちの切ない空気を破ったのは冷静すぎるオヤジの一言だった。オヤジはそう言われて呆然としている俺たちに、もう一度言った。
「いい加減にしなさい、ふたりとも。梅月くんも、子どもみたいに写楽を引き留めるのは止めてくれないか」
すると、蚊の鳴くようなか細い声で、遊が言った。
「おじさん、写楽はどうしてもイギリスに行かないといけませんか……?」
遊はまた脱水になりそうなくらい泣いている。……何もしてやれない自分が歯がゆくて、胸が痛い。そして、俺も最後の反抗とばかりにオヤジに言い返した。
「俺たちはまだガキで男同士だけど、真剣に愛し合ってんだよ!別にイギリスじゃなくなって勉強は出来るだろうが!自分だって好き勝手してきた癖に、恋愛沙汰まで口出される覚えはねぇんだよっ!!」
真剣な想いでそう言った。だけど……
「お前たちのそれは愛し合っているとは言わない。ただの依存だ」
「え?」
オヤジの言葉に、遊はキョトンとした顔をした。何を言われているのか分からない、と言った感じだ。だからまた俺が言い返した。
「分かったように言うんじゃねぇよ!大体、俺たちを引き離そうとしてるのはオヤジの癖に!!」
「分かっているから言っているんだ。お前たちは今、互いのことしか見えていないし、互いのことしか考えていない。離れてしまえば死ぬなんて、そんなの本当の愛じゃないよ。安っぽいドラマみたいな恋愛と同じだ」
「……っ!」
俺と遊はお互い深く依存している。それは、今さら指摘されなくても十分分かっていたことだ。けど、それの何が悪い?愛し合ってることに違いはないのに……。
オヤジは俺が言いたことが分かっているかのように、頭を抱えてハァ、と溜息を吐いた。まるで自分の息子がここまで馬鹿だったのか、と嘆くように。
以前の俺なら、この時点でオヤジを無理矢理ぶん殴っていただろう、山のように高いプライド故、たとえオヤジだろうと他人に馬鹿にされるのは我慢ならないから。
けど今は、馬鹿だと思われたっていい。馬鹿だと呆れられてそれで遊と一緒に居れるんなら、俺は世界一の馬鹿だと誰から思われたっていい。もう無闇矢鱈にキレて、後先考えずに暴れたりなんかしない。
オヤジはこの調子だと俺たちに分からせるのは無駄だと思ったのか、諭すような口調に変わって言った。
「写楽、お前はいつまで子どものつもりなんだ?」
「は?」
「いつまでも、私に与えられた世界の範囲だけで物事を考えるんじゃない」
「何言って……」
「お前は来年の4月には18歳で、すぐに大人になる。なのにこれからどうしたいのか、自分の進みたい道を自分で考えもせずに、これからも私に言われるまま与えられるままで残りの長い人生を過ごすつもりなのか?」
「……」
オヤジは一体何を言ってるんだろうか。だって、俺がそう思うように仕向けたのは他ならぬこのオヤジで……
ああ、全ての原因をオヤジのせいにしてる時点で俺は何か間違っているのか……?
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