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2羽

薄いドアが閉まって暫く、コンコンと控えめなノックの音が狭い部屋に響き渡った。 「調子はどう?」 ドアを開けて入って来たのはソルシエールの店主カミラだった。黒檀色の長い髪を耳にかけ、女性特有の柔らかい身体線を見せるようにスリットのはいったドレスを着こなす、とても美しい女性だった。 シャルルはベッドの上に身体を起き上がらせて、カミラに向かって脚を開く。蕾から溢れ出る白い蜜を人差し指で掬ってカミラに見せつけた。 「いつも通り。全く勃ちませんでしたよ」 嘲笑うようにシャルルは口を歪める。 「そう、残念ね」 社交辞令のように響く言葉を吐き出しながら、カミラは頬に手を当て溜息を吐いた。 「で?用はなんですか?接客終わったなら早く帰りたいんですけど」 「あら、用がなきゃ来ちゃいけないのかしら?」 「貴方が僕を心配して様子を見に来たとは到底思えませんので」 棘を含んだシャルルの言葉にカミラは肩を竦めると、真っ赤なルージュを引いた唇を開いた。 「貴方には明日から五日間とある場所でとある人の相手をしてもらいます」 その言葉を聞いたシャルルは思わずはぁ?とドスの効いた声を上げてしまった。 「なんですかそれ?五日間?」 「さっき言った言葉の通りよ。貴方は明日から五日間その場所で“つきっきり”である人の相手をしてもらいます」 カミラは先程と同じ言葉を同じように繰り返す。それに慌てたのはシャルルだった。 「待ってくれ!!5日も部屋を開けるなんて無理だ!アイツの世話は誰がするんだよ!!」 今にもカミラの開けたドレスの胸元を掴みかかりそうな勢いでシャルルは吠える。 「安心してちょうだい。あの子をお世話する人ならもう手配済みよ」 カミラは興奮状態のシャルルを宥めるように穏やかな声で告げる。それでもシャルルは納得できないといように首を横に振る。  「知らない奴にアイツの世話は任せられない」 「これは決定事項よ。それにあの子の許可も取ってあるわ」 “あの子の許可”を取っているというカミラの言葉にあれだけ異議を唱えて吠えていたシャルルも何も言い返せなくなり、項垂れた。 「五日間の我慢よ。貴方がこの仕事をしてくれたら当分の間は薬代には困らない収入が入るのよ」 その言葉を聞いて、とうとうシャルルは頷いた。 微かに動いた頭を見て、カミラは一瞬だけ複雑そうな表情をする。 「明日、迎えの者が来るからその人が説明してくれるわ。ごめんなさいね。私の口から詳しくは言えないのよ」 「それだけ素性を知られたくない人物ってことですよね。わかりました。その仕事受けます」 いつもの口調に戻ったシャルルにカミラはほっと息を吐く。 「助かるわ。安心して、あの子の世話を頼んだ人は私が一番の信頼を置いている人だから」 一人部屋に残されたシャルルは、唇をきつく噛む。安心してとカミラに言われても大切なあの子を知らない人間に五日間も預けるなど心配で堪らなかった。 「五日間の我慢だ」 シャルルは自分に言い聞かせるように力強く呟いた。

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