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19羽
シャルルは舌で傷が治ったことを確認しつつ本館と別館を繋ぐように中庭を経由して渡された廊下を歩いていた。シャルルは花に興味はない。だから、中庭には一切目を向けなかったのだが、ふと視界の隅に興味を惹かれる光景が入ってきた。
中庭の花の葉っぱより鮮やかで艶やかな緑色の髪をした人物がまるで花々の主のように立っていた。その人物はシャルルの頬を張った当人だった。それだけならわざわざ声をかけることなくシャルルはそのまま目的地へと立ち去っただろう。
それでも、進む足を目的地から逸したのはその人物が寂しげな背中をしていたからだ。まるで、愛を欲しいがために頑張っていい子を演じている子供みたいな。
「もしかして俺を殺しに来た?」
声をかけたことでシャルルに気づいた花の主は緩慢に振り返る。
「あんたを殺したらアトラス様の愛は僕に向く?なら今すぐ刺し殺すけど」
「さぁ?。でも、そんなことしたから逆にお前が処刑されるんじゃないのか?」
殺伐とした言葉をかわしているのにその空気は小川を流れる水のように穏やかだ。
「あんたが禁足地に足を踏み入れた理由は?」
禁足地。この屋敷に踏み入ることを目の前の人物はここの主から禁止されていた。
「僕はもうすぐ発情期なんだ」
発情期、それはオメガにだけ備わってる機能だ。発情期に発するフェルモンは普段は機能しないアルファの生殖機能を機能するようにするための装置だ。アルファはオメガからしか生まれてこない。だからアルファとオメガは大切にしなければいけないと、そうベータの子供達は大人から口酸っぱく言われ続けてきた。
「だけど、僕では役に経たない。だから、君の力が必要なんだ。この国を次世代につなげるために」
血が滲むほど唇を噛ましめて悔しげに語るロジェに納得したように頷く。
「勃たせるように協力しろって?」
あけすけに言い放たれた下品な言葉に、ロジェは微かに頷く。かつては華々しく咲いていた鮮やかな花が萎びたような態度を見せられてシャルルは瞬く。
「まぁ、別にいいけど。元々性を売るのが俺の仕事だったわけだし」
あっけらかんと言い放たれた言葉にロジェはピクリと片眉を少しだけ動かした。
「僕が言うことでもないけど、もう少し自分を大事にしたら?」
「俺よりノアのほうが大事だから」
当たり前のように答えるシャルルにロジェはまぁ、僕には関係ないけどねと気に食わないことがあった子供のように顔を背けた。
「で?具体的に俺は何すればいい?」
「普通にセックスしてくれていい。精液さえ僕の中に入れば僕はアトラス様の子を孕める」
義務的に聞こえるその言葉にシャルルは肩を竦める。
「さっきあんたが言った言葉そのまま返すよ」
ロジェはその言葉に何も答えなかった。
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