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第9話 R18
「今日、なんか食いたいモンある?」
いつものようにマンションの地下駐車場へと車を停めた家村が振り返り、俺にそう声をかける。
「………、なんでもいい」
毎回聞かれる質問にこちらも同じ返答を返すと、少し不服そうな顔が無言で俺を見詰めてくるが俺はフイとそれを無視して
「早く開けろ」
と、溜め息混じりに呟く。
あれから数ヶ月、家村との関係は続いている。
互いに決めたワケでは無いが、毎週末俺を送り届ける時に家村も一緒に俺の自宅に上がり、一緒に飯を食ってプレイをして泊まっていくという流れがもう自然になってしまった。
兄との時は月に何回かだったものが毎週末になり、ともすれば金曜日から日曜日の夜までと時間的にも増え、Sub性が格段に落ち着ついた事でSub用の抑制剤が重いものから軽いものへと変わり、それによって睡眠障害や体調不良が減ってすこぶる体の調子が良い。
今まで週末はSub性で満たされなかったものを、余り意味は無いと解っていてもDomで消化しようと金で買ったSub相手に発散させていたが、今ではその頻度が逆になり平日の時間が空いた時にDom性を発散させ週末は家村と……。の構図が出来上がってしまっている。勿論プレイ後は家村に提示した金額を払っているワケだが……、毎回金を出す度に嫌な顔をされてしまう。
「なんでもいいが、一番困る答えなんだけど……」
ブツブツ文句を言いながら奴は後部座席のドアを開け視線で、やっぱ食べたいモノ無いのか? と言ってくるので
「食事に関してこだわりが無いのに、答えられるワケ無いだろう?」
今までの食生活が乱れ過ぎていた俺にとっては、週末コイツが作る料理に対して文句は言えない。しかも毎回冷蔵庫にあるもので手早く作れる奴に、少なからず凄いと思っている自分も……。
……………まぁ、コイツには絶対に言わないと心に誓っているが……。
「はぁ。また晴子さんにでもレシピ教えて貰おうかな」
一緒にエレベーターへと乗り込み上がっていっていると、家村がスマホを見ながら呟いている。奴が晴子さんと言っているのは俺のところに来ているハウスキーパーの名前だ。毎週末部屋の掃除と週始めのおかずを作り置きしている年配の女性だが、家村と関係が始まってから朝起きると何やら二人で楽しそうに話しているのをしょっちゅう目にする。
家村曰く簡単で美味しいレシピを教わっているそうで、楽しそうに会話している二人はさながら若い娘がキャッキャッウフフしているようだ。今までは週末に起きても静かに家事を黙々とこなしている女性。でしか無かったが、家村がいる事で俺に対する表情を始め、良く話し掛けられるようにもなった。
それに、家村は俺が知っているどのDomとも違う。
俺が知っているDomは、Subは勿論だがノーマルに対しても自分から話し掛けたり歩み寄ったりはしない。その場を支配し命令するのみだ。しかも誰かに対して献身的に尽くす事もしない。まぁ、中には自分のSubに対して尽くしたいや着飾りたいと思っているDomがいる事は承知しているが、基本的に尽くす側はSubだと相場が決まっている。それにDomがSubを着飾りたいと思う心理は、周りのDomに自分の財力を見せつける為。アクセサリー感覚に近い。美鈴と結婚する前は俺もパーティーに何人ものSubを引き連れて参加していたものだ。
だが家村は尽くしたいDomなのか、甲斐甲斐しく俺の面倒をみたがる。週末に俺の自宅へと来れば料理は作るし、休みの日にはハウスキーパーが来る前に部屋の掃除を簡単にしてくれている。前に一度料理が面倒ならしなくていいと言った事があるが、奴は『弟妹達ので慣れてるからな』とやめた事が無い。
父親が亡くなり専業主婦だった後妻が働きに行くようになって、荒れた時期を脱した家村は一人暮らしの自宅から暫く実家に通って家事を手伝っていたそうだ。その時奴も建設作業員として働いていたらしいが、仕事が終わり夕飯の買い出しをして実家に戻り弟妹達に夕飯を作っていたらしい。
『弟妹達はお前に怯えなかったのか?』
その時気になった事を素直に聞いた俺に対して家村は
『アイツ等は生まれた時から俺がDomだったからな。慣れだよ、慣れ』
と、面白そうに笑っていた。
そんなものか? と思ったが、言われればそうかもと思い当たる節がある。俺の弟、英臣の友人、長谷川という男が確かそうだった。長谷川は英臣と一緒の大学に通っていた奴で、大学時に長谷川が起業し英臣を誘った経緯がある。今は起業した会社で英臣の右腕的存在の男だ。確か長谷川の家もDom同士の婚姻で奴以外は全員Domだと記憶している。当の本人はノーマルながら生まれた時から周りにDomがいる環境が普通だった為、Domに対して怖がったり媚る事は無い。奴との出会いで英臣は更に考え方が変わり、自分の道を見付けた……。
『ケド、結局は母親がやっぱり俺の事怖がったから……長くは続けられなかったけどな』
家村は少しだけ寂しそうに口元を歪めて呟いていた。後妻だけは家村の事を受け入れられなかったようだ。それから実家に足は遠のいたものの、自分が働いて得た給料の幾らかは振り込みで実家に入れているらしい。
『そこまでする必要があるのか?』
と尋ねた俺に、奴はニカリと笑って
『弟妹どっちも大学には通わせてやりたいじゃん?』
なんて……。半分しか血が繋がっていない弟妹と、自分の事を愛してはくれない後妻の為に笑顔で頑張れる家村から目が離せなかったのを覚えている。
ポーン。と高い音と共にエレベーターのドアが開いて、見慣れた玄関が現れる。俺はスタスタとエレベーターを降りて部屋へと入ると、家村ももう慣れたもので俺の後を付いて来ていつものようにすぐにキッチンに向かい、俺はバスルームだ。
俺が風呂に入っている間に二人分の飯を家村が作る。食べ終わるとアイツが風呂に入り、プレイをするか映画を見て寝るか……。それが最近のルーティーンになっている。
風呂から上がり自室に戻って部屋着に着替えてからリビングへ行くとタイミング良く夕飯が準備されており、俺は定位置になっているソファーに腰を下ろす。奴はテーブルに夕飯を置くと
「よし、食べるか」
と、俺の左側にあるソファーに座って両手を合わせると箸を手に持ち食べ始めた。俺も奴と同じ動作をして夕飯に口を付ける。
意外にも夕飯時は会話が弾む。まぁ、殆どは家村が喋り俺が相槌を打つ形になっているが、それでも会話のラリーは不思議と途絶えた事が無い。奴が話す内容は俺が知らない事ばかりだからだ。最近の流行りだとか、お笑い芸人の話。今までほとんどが仕事中心だった俺にとって、家村が話す内容は新鮮だ。奴も俺が知らない話を喋るのは楽しいのか、俺の反応を見ながら面白可笑しく時には大袈裟に身振り手振りを交えて話す。
「はぁ~、風呂サンキュ」
夕飯を食べ終え、家村が風呂からリビングへと入って来る。奴は髪を乾かさないのか毎回バスタオルでガシガシとタオルドライしながら俺の側へと近付く。
俺は家村が食後に淹れたコーヒーを飲みながら、テレビから流れるニュースを見ている。奴と週末を過ごしだしてから俺はあれ程飲んでいた酒を飲まなくなった。それは奴が酒を飲まない質だからだ。酒に強そうな顔をしている癖に酒に弱く、一度一緒に自宅で飲んだ事があるが家村はすぐに酔っ払って寝てしまった事がある。それからは一緒に飲む事が無くなり、それにともなって俺の酒を飲む量も自然に減った。
まぁ、Sub用の抑制剤と酒の併用は元々医者から余り良くないと言われてはいたが、仕事の関係上飲みの席が多い俺にとっては回避できない事だと無視して今まで一緒に摂取してきた。それが週末だけだとしても併用する事が無くなり休肝日ができた事は自分の体にとってはかなり良い事だと認識している。
Sub用の抑制剤、酒、食事、睡眠共に家村と関わりを持ちだして健康に近付いていく自分の体。精神的にもプレイをする事でSub性に引きずられる事も無くなり安定しはじめ、俺にとって家村との関係はプラスでしかなくなっていく。
「今日はどうする? プレイするか、しないか」
先程同様ソファーに座り俺の方へと視線を投げながら髪を乾かす家村に
「どちらでも……まぁ、体調は良いが……」
奴からこういう風にプレイをするのか? と聞かれた事が無かった俺は、少し詰まりながら言いにくそうに答える。いつもならサラリと家村から寝室に誘われそのままプレイに雪崩れ込むパターンなのだが……。
「体調は、良い……ね」
俺の言葉尻をオウム返しして、バスタオルを肩へと落とし視線を上げた家村の表情は、ニッコリと口元の口角を上げ笑っているはずなのに、目はDom特有のもので……。俺はその目にゾワリとなり点いたままのテレビに視線を戻す。
俺よりも奴の方がプレイをしたいんじゃ無いかと思わせる目に、俺の鼓動は早鐘を打ち出す。未だかつてダイナミクス性でこんなにも人から欲された事が無い。大体はDomの自分が捕食する側で、買ったSubを好きに出来る構図が当たり前。過去、何人かと付き合った事もあるがDomの自分もSubの相手からもこんなにも欲を纏った目で見た事も見られた事も無い。
「……………お前は、どうなんだ?」
テレビに視線を向けながら呟くが、コーヒーを飲んでいたのにも関わらず俺の声は掠れている。それは自分自身が戸惑ってそうなっているのか……、はたまた家村の欲にあてられた形なのか……。
俺の問い掛けにしばしの沈黙が流れたが、奴が動いたと同時に布ズレの音が微かに聞こえ、俺はピクリと肩を震わせる。だが、体は動かないまま。
カタリと音を立て家村がテレビのリモコンを掴んだのが解り、このままチャンネルを変えるのかと思った矢先、見ていた画面が真っ暗になると
「じゃぁ、寝室に行こうか」
と、家村は気持ちを言わなくても行動で示してきて……、俺はコクリと微かに喉を鳴らした。
不自然にならないように注意を払ってユックリと奴の方へ視線を泳がせる前に、伸びてきた手によって手首を掴まれグイッと上に引き上げられる。その体になって俺は奴と視線が絡み息を呑む。それは無言で何も言わなかった俺が家村の行動に同意したと思ったのか、Domの圧を隠しもせずに奴が強くしたからだ。チリッと項が焼かれる感覚に俺は目を細め、そのまま寝室へと連れて行かれる。
寝室のドアが開き、俺の後ろでドアがユックリと静かに閉じ、そのままベッドの前まで連れて行かれ手首を離されると、トッと軽く肩口を押されて俺はベッドの上へ尻を落とす。
「Switch」
家村の口がユックリとそう動き、先程よりも体がより強く奴のDom性を感じてブルリと震えた。
「ハッ……、良い顔……」
震えた俺を見て嬉しそうにそう呟きながら奴は俺の顎下に指先をあて、スリリと撫で付ける。止めろ。と言いたかったが口を開けば言葉よりも変な声が出そうで、俺は唇をキュッと噛み締めた。そんな俺を上から見詰めていた奴が、スッと顎下から指を外し
「Strip」
と呟く。『お座り』では無くいきなり『脱げ』のコマンドに、俺は本気か? と家村の顔を見上げるが、奴は試すように俺を見ていて……。
何度か家村とプレイをする度に、俺がコマンドに対してどこまで受け入れられるのか家村は徐々に試すようになってきていた。それに兄とは違い奴とのプレイは……、互いの高揚した熱を発散させる事も含まれている。頭では駄目だと毎回警鐘が鳴るが、Sub性で受け止める快感は今まで経験してきたどれとも違い、甘美だ。
それに………、毎回俺を優先して大切に扱われていると解るプレイ行為は……ハッキリ言って悪い気はしない。それどころかむしろ……。
「聞こえなかった? Stripだ」
コマンドを言われてもその場で動けなくなっていた俺に、家村は微かに首を傾げてもう一度命令する。俺はその台詞にハッとなり、着ているスウェットを掴むとグイッと上へと引き上げる。俺の腹筋が露わになりそのまま裾を持ち上げて首から脱ごうと腕を肩まで上げたところで
「Look」
スウェットを掴んでいた手に奴の手が重なり、俺の動作を止めると『見ろ』とコマンドが飛び俺は視線を奴へと泳がす。
視線が絡んだ家村の表情は探るように俺を見ていて
「集中してないね……。もしかして乗り気じゃ無かった?」
「……イヤ……」
奴との行為を思い出していた俺は気不味さに目を逸したかったが、コマンドがそれを阻み見詰め合った家村の目は、俺の感情の奥まで見透かすみたいにジッと覗き込んでくる。俺は緊張からコクリと喉を鳴らすと、途端に奴はフワリと表情を和らげ
「GoodBoy」
重なっていた手が俺の頬へと移り、スリリと指先が頬を撫でる。そのくすぐったさに目を細めれば
「プレイは続行しても?」
家村に対して注意力が散漫していた俺に、今度は大丈夫かと聞いてきた奴に、俺は小さく首を上下に動かすと
「ン。じゃぁ、Strip」
先程と同じコマンドを言われ、俺は掴んでいたスウェットを自分の首から引き抜きパサリとベッドヘ置く。そうして今度はパンツを脱ごうとウエスト部分に指を滑らせ尻を浮かせるとスルリと脚からも生地を離す。上のスウェット同様ベッドへとパンツも置きボクサーパンツだけになった俺を家村は上から見詰めていて……。
「言う事聞けて偉いな」
満足そうに口元を緩め、コマンドを聞けた俺の頭に手を置くとクシャクシャッと髪を掻き混ぜながら奴が褒める。俺はその心地良さに一瞬目を閉じて少しだけ顎を上げもっと撫でろと意思表示すれば、フッと奴が微かに笑う気配とそのまま指先が頭から顎下へ移動しスリスリと撫でられ、薄っすらと閉じた目を開く。すると目の前に愛おしそうに俺を見下ろす家村の顔とぶつかり、俺はドキリと鼓動が跳ね上がる。
最近の自分は変だ。あれ程嫌がっていた家村とのプレイを受け入れてしまえば、面白い程に心地良いという感情しか無い。それに家村本人の人となりを垣間見れば、当初思っていたものとは違う感情が自分の中にある事も自覚していた。駄目だ。と、自身に言い聞かせ深みに嵌れば後戻りなど出来ないともう一人の俺が強く歯止めをかけている。
……………、金を払っていて良かった……。その事実だけが俺と家村との距離を正しく保っていると言っているようで、少しだけ安心している自分がいる。俺が出会ってきたどのDomとも違う奴に、少なからず好感を抱いている事を悟られないようにしなければ……。
今まで他人に対してこういった感情を抱いた事は無い。DomだろうがSubだろうがノーマルだろうが等しく相手に対しては、弱さを見せず支配下に置き、自分が優位なのだと解らせるだけだった。だが家村の前でそれらは全て無意味になる。Domという自分は不要で、ただただ弱いSub性を曝け出し家村の支配下に置かれるのだ。
『他人に委ねる事も必要だよ』
以前兄から言われた言葉を奴とプレイをする度に思い出す。
あの時はこうなる事など考えられないと思っていたのに……。
今の現状を見れば、あの時の自分は驚くだろう。こうして家村に自分を任せれば、張り詰めていたものがボロボロと自身から剥がれ落ちていく感覚。
素直にこのまま全ての欲に流されたいと思う感情と、駄目だと律する理性。その狭間で上手く泳げない俺は、いつか溺れてしまうだろうか?
「Come」
いつの間にか家村はベッドへと上がり、ベッドヘッドを背もたれにして座っている。後ろから『おいで』とコマンドをかけられた俺は、ベッドへと上がると奴の方へ四つん這いの体勢で近付いて広げられた両脚の間に体を収める。
「いい子だな。次は、Hug」
言いながら両手を広げる奴に、俺も腕を伸ばし首に腕を絡ませると背中に家村の手の平の感触があたって、フゥ。と小さく息が漏れる。回された手が褒めるように上下に撫でられ緩くピリピリと這い上がってくる気持ち良さに先程とは違う種類の息が口から零れると
「ホラ、こっち」
少しだけ俺と距離を取った家村は片方の手を背中から外し自分の唇へ伸ばすと、指先でトントンと合図を出す。『kiss』のコマンドだ。
家村が離れた事によって俺が奴の首に回していた腕が伸びていたが、再び肘を曲げながら片方は後頭部に、もう片方はそのまま首に回したままで距離を詰め、俺は自分の唇を軽く奴の唇にあてた。フニッとした感触が触れ、俺は顎を引いて唇を離そうとすれば俺の背中に回った家村の手がグイッと自分の方へと引き寄せる。
「ンッ……ムゥ……」
離れそうになった唇が強く押し返されたと思う間もなくすぐに奴の舌先が俺の唇を割いて侵入してくる。迎え入れた舌は何度か俺の舌と絡み、弱い上顎に移動するとスリスリと擦り付けるように愛撫し始め、俺は後頭部にあてた手に力を入れギュッと髪を掴むと、チュルリと名残惜しそうに唇が離れ家村がジッと伺うように俺の顔を眺めがら
「Good、気持ち良いか?」
わざわざ聞かなくても……。と微かに眉間に皺を寄せると、クスリと奴が笑い
「言わなくても……体は正直だな?」
と、楽しそうに呟き背中に回っていない手を俺の中心へと持っていき、キスで反応したモノを指先でくすぐる。
「………ッ」
くすぐっている指先が絡むようにボクサーの上から厭らしく動くとそれに呼応するようにビクビクとモノが揺れて、素直に反応してしまう自分が恥ずかしく『見ろ』とコマンドされているが微かにフイと視線を泳がせば
「Lookって、言ってたよな? それとも酷くされたくてわざとしてる?」
ニコリと口元を歪めながらも見詰めてくる目は酷く猟奇的だ。自分のDom性のリミットを外し、俺に対して滅茶苦茶にしたいと本能が言っている。その欲を間近に目の当たりにすれば、それに引き摺られるように俺のSub性も反応しゾクゾクと甘い疼きが背筋を駆け上がる。
「ぁ……、ちが………ッ」
家村の台詞が甘く耳へと届き、俺は逸していた視線をユックリと戻しながら否定の言葉を呟く。だが家村の表情は変わらずに
「それも邪魔だな……Strip」
俺のモノを握っていた指先がボクサーのゴムを緩く引っ張りながらそうコマンドする。いつもならプレイでグズグズになったところを奴がいつの間にか脱がしているのに、今回は俺の意識がハッキリしている時にそのコマンドを言うのかと狼狽えてしまう。
「ン? どうした、聞こえなかった?」
ニコニコと笑顔は崩さないが、目だけは拒否は無いと言っている。俺はソロリと回していた腕を奴から外して、ボクサーのウエスト部分に指を引っ掛けると一度大きく息を吸い込む。
羞恥心が自身を襲う。部屋も明るく全てを家村に見られてしまうという事実は酷く自分を躊躇わせる。いつもならプレイで昂ぶった互いの熱を発散させる時は、奴が俺の体を触りながら照明を落とすのに……。
どこまで俺が奴のコマンドを受け入れられるのか試す行為に、俺は細く吸い上げた息を吐き出しながらユックリと両手を下へとさげていく。勿論、家村と視線は絡んだまま。
キスと軽い愛撫で反応していた俺のモノは、一度ボクサーのウエスト部分のゴムに引っ掛かりブルンッと勢い良く出ると、外気に晒されビクビクと震える。家村は俺と視線を合わせつつ時折視線を下へと向け、俺のモノがどう反応しているのか見詰める。それによって俺がどう感じているのかと俺の表情を注意深く凝視するのだ。
下げていく手とは反対に片方づつ膝を上げてボクサーを脚から引き抜いていく。そうして脱いだものを傍らにパサリと放って、はぁ、ぁ……。と熱く溜め息を吐き出すと
「ヨシヨシ」
再び頭に家村の手が伸び優しく撫でられた俺はコマンドが聞けた嬉しさに目を細めると、頭にあった手が今度は肩口を掴んで
「じゃぁそっち向きになって」
言いながら俺を自分から反対側に向かせたいらしい。グイッと回すように肩口を押され俺は言われるがまま奴の胴体を背もたれにするように向きを変えて落ち着く。
背中に家村の体温を感じていると、脇の下から腕が伸びてきて後ろからギュッと抱き締められる。
「………ッ」
初めての態勢と、初めて奴からきつく抱き締められた事で俺は息を呑む。と、伸びてきた腕が緩み両手が俺の胸へあてがわれると中央ヘ寄せたり揉んだりし始め俺は下唇を軽く噛む。そうしなければ甘い吐息が口から漏れそうだからだ。
そんな俺を見透かしてか、奴は好きなだけ胸を揉みしだくと不意に指先で立ち上がった乳首をピンッと弾いた。
「アッ、~~~~~!」
突然弱いか所を弾かれ声が漏れてしまうが、一瞬後には先程よりも強く唇を噛み締めてやり過ごす。そんな俺をどう思ったのか、家村は弾く事を止め今度は潰すように指先を乳首へと押し付けてグリグリと左右ヘ動かし始めるから、俺はその快感に喉を仰け反らせた。
「ホラ声、我慢するなよ」
仰け反らせた事で奴の顔の近くに俺の耳があたり、耳元で甘く囁かれる。その声でさえもズンッと重く腰に響き、俺はむずがるように体をくねらせると内腿は小さく痙攣してしまう。それでも声をあげない俺に家村は一瞬無言になるが次いでは
「Gasping」
再び耳元で『喘げ』とコマンドされ、耳から脳へビリビリと電流が流れる。
「んぅっ……、ぁ、ハァッ」
きつく噛んでいた唇が解け俺の口から気持ち良さそうな声音が零れ落ちる。それを聞いて満足そうに息を吐き出した家村は
「偉いぞ……」
と囁きピチャリと舌で俺の耳を愛撫し始めた。
「……ッ、やァ……ンンッ、ア、アぅ……ン」
ピチャピチャと舌と音で犯され舐められている耳の方へ顔を傾けると、それを許さないと押し潰されている乳首を軽く捻られ引っ張られる。
「アッ! ~~~ッ……、止めッ」
「ン~? 止めて欲しいって……そんなに腰上げながら言っても説得力無いよ?」
家村の台詞に何を言っているんだと視線を下へと向ければ、自身の腰を持ち上げユルユルと上下に動いている光景が目に飛び込んで俺はカアァッと息を呑み首筋まで熱を持つのを感じる。
「ハッ……無意識とか……」
俺の反応に家村は楽しそうに呟き、チュッ、チュッと赤くなった首筋にキスをしながら乳首を弄っていた片方の手を離し先程からの愛撫で気持ち良さに先走りを流している屹立を掴むと、先端を重点的に扱き始め
「……ッ、気持ち良さそ」
自分の与えている快感によって乱れる俺に、ハァッ。と熱い溜め息を漏らしながらたまらずといった様子でそう耳元で呟く。
「イ……ァ、だ……めだッ……」
「何が、駄目?」
先走りが奴の手に絡みクチュクチュと厭らしい音を立てる。俺は扱かれている手を止めようと自分の手を伸ばすが、そうする事が解っていたかのように
「Stay」
とコマンドで動きを止められる。
「ン、いい子……」
「………ッ、フゥ……ゥン」
家村に曝け出している羞恥心から奴の行動を止めたいのに、コマンドに従うと褒められその喜びにもっとと本能が叫ぶ。それにこの数ヶ月奴はプレイ後に必ずアフターケアを施し、普段でも俺との信頼関係を築いてきた。その賜物と言うべきか兄とのプレイ以上にコマンドは効きやすく、得られる喜びや気持ち良さも格段に上がっている。
家村によって、俺が作り変えられている。
こんなにも他人に自分を曝け出す事も無かったのに……。
「コッチも可愛がろうか……」
俺のモノを扱き上げる手と同じリズムでカリカリと乳首を弄っていた手を離し、奴はベッドの側にあるチェストへと腕を伸ばす。カタリと引き出しを開ける音を聞いて、ビクリと浅ましく屹立が震え家村は楽しそうにフフッ。と耳元で笑うと
「何? 期待してる?」
言いながら俺の顔を見ようとして首を傾ける気配に、俺はフイと顔を伏いて見られないようにしたが
「ケド、期待で震えてるね?」
「アッ……ゥンッ……」
握られた屹立を先程よりも圧を強くして上下に動かされ俺は簡単に喘いでしまう。そんな俺を楽しそうに後ろから眺めながら家村はチェストから取り出したジェルの蓋をパコッと開け、扱いているモノの上からトロトロとかけ始めた。
かけたジェルが屹立から玉、会陰と流れそうして孔まで垂れるとジェルの蓋を閉じて一度俺の腰をグイッと自分の方へと更に引き寄せる。
「………ッぁ」
引き寄せられた腰に昂ぶった家村のモノがあたってゾワリとした感覚が這い上がってくる。俺の痴態を見て素直に興奮しているのだと解り、得も言われぬ感情が俺を支配してモジリと両膝を合わせようとすれば、引き寄せた腕が俺よりも早くその両膝の下へと入り込み
「よっ……と」
奴の掛け声と共に膝が上へと持ち上がるとそれに連動して尻がベッドから離れ、腰にあたっていた家村の怒張も背中に移動したと感じた次には、そのまま膝裏にあった腕が引き抜かれ手で両膝を開かれる。
「ッ! ……お前ッ、こんな……」
「ン? だってこっちの方が弄りやすいし」
あられもない姿を晒していると自覚し奴を睨み付けながら言葉を発するが、家村は涼しい顔をして俺の言葉に返事を返しながら開いた脚の中心に指を伸ばす。
「ンぁッ! ……、~~~ッ」
「ホラ、声詰めるなって」
流れ伝ったジェルでクチュリと水音が鳴ったと思うと、家村の指先が孔の周りを指先で撫で上げ慎重に一本中へと侵入してくる。
「ぁ゛……ッ、ゥ~……止め……」
孔へ入れられた違和感に小さく呻くと、家村は最近慣れてソコでも感じるようになった俺の弱いか所を的確に指先で押し上げ、執拗に愛撫し始める。
「ンぁ゛、ア~~……ッ止めッ……ソコ、触ッ、るな゛……ッ」
割と早い段階から家村には後ろを弄られていたように思う。欲を発散させる行為としてごく自然に侵入され、余り嫌悪感を抱く事も無かった。ただ、人に触られた経験の無いか所を弄られ、それでもここで快感が拾えるのだと教え込まれれば面白い程簡単に俺の体は順応した。
「止めて欲しそうな反応じゃ無いんだけど……」
俺の発した台詞に反論するように奴が呟き、もう一本指を増やされる。
「ン゛ッ……ク……ハァッ、ぁ……」
「気持ち良いだろう?」
「………ッ、やぁ……ア、アッ……」
「嫌じゃ無いだろ? 自分で擦り付けてるの解ってない?」
家村の声に誘導されるように視線を自分の下半身へと向ければ、奴が言っている通り気持ち良さに腰が上がりヘコヘコと無意識に振っている光景が目に飛び込んでくる。恥ずかしさに動きが鈍ると意地悪く中に入っている二本の指がコリコリと前立腺を挟んで腹側に押し付けてきて、俺は奴の腕に咄嗟に掴まり喉を仰け反らせる。
「ン゛~~~ッ! ァ、ア゛……」
「気持ち良さそうだな? ン?」
首を下げて俺の表情を見ながら家村が呟く。俺は過度な快感にハクハクと空気を食んで快感を逃がそうとするが、奴は自分の質問に返事を返さない俺に対し
「Say」
呟いた家村の声に意識せず視線を上げれば目と目が絡み、コマンドで『言え』と言われればビリビリと全身に気持ち良い波が襲う。俺はブルリと身を震わせると荒い息を吐き出しながら
「……ッ持ち、良い゛……、な゛、か……気持ち……ッい゛、い……」
「ン、素直に言えて偉いな……」
褒める言葉と一緒に扱いていた屹立の鈴口を親指の爪先でグリグリと弄られ、押し付けていた前立腺を挟んだまま小刻みに左右に振られ俺は大きくビクンッと体が跳ねた。
「ヒ、ィ゛……ッ、ァア゛~~……」
大きな快感に包まれ体が跳ねた直後中に入っている指をギュウゥッと締め付けてしまうが、決定的な瞬間は訪れない。俺はイケ無い苦しさに眉根を寄せて縋るように掴んだ奴の腕にきつく力を入れると、家村は殊更優しい表情で
「イキたい?」
と呟くから……。
俺はコクコクと首を上下に動かしイカせてくれと懇願する。だが、奴はそれでけは不満な様子で
「Sayだ。どうされたい?」
俺の行動よりも言葉で言えと呟かれ、俺は震える唇を動かし
「フゥ、ン……ッイ、きたい……ッ。イカせ、で……」
喘ぎに混じりながら掠れた声で呟いた途端、家村は上げた口角を更に引き伸ばしチラリと歯を覗かせ
「Cum」
『イケ』と望んだ言葉を言ってもらい大きい波がくると期待していた体はブルブルと小刻みに震え出し、次いではそれがガクガクと大きい痙攣になった刹那、ピンッと全身張り詰めた俺は鈴口から白濁の液体が勢い良く放たれ、それと同時に中でもキュンキュンと奴の指を食い締め達してしまう。
家村のコマンドでイケた俺を奴は褒める為、上体を屈めて俺の唇を奪い舌を絡める。そうしてイキ終わって体が弛緩するとユックリと唇を離し
「上手にイケて偉かったな……。じゃぁ次はコッチで気持ち良くなろう……」
と、俺の喉をスリリと指先で愛撫した。
俺は家村のその行為にゴクリと喉を鳴らし、背中にあたっている奴の怒張を意識してしまう。
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