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第12話
そろそろ限界が近い。
睡眠不足に加え、酒と薬の併用で効きが悪くなっているのか、体が悲鳴を上げていると自分でも解る。
仕事中は外に出る度に空気が張り詰め、それがジワジワと自分を蝕む。
嫌だが兄に言って誰でも良いからDomを紹介してもらうか……。家村で無いなら誰でも同じ事だ。
役員室のソファーに座りそんな事を考えていると、内ポケットに入れていたスマホがラインを告げ俺はスマホを取り出す。画面を確認すれば兄からで会社近くのビジネスホテルにいるから一人で来いとの事だ。
ビジネスホテル? 何の用だ?それに一人で来い。とは……。
ワケが解らないままだが、俺は解りました。と返信し役員室を出ると、出てすぐの空間が秘書室になっている。部屋から俺が出て来た事で、俺の秘書が椅子から立ち上がり
「どちらへ? 何かお約束がありましたでしょうか?」
と、少し困惑気味に聞いてくる。
俺は片手を上げ近付いて来ようとする秘書を止めて
「イヤ、何も無い。しばらく出るが問題は無いだろう?」
この後、特に予定は入っていなかったよな? と考えながら言う俺に
「え、えぇ……。特にございませんが、出るのであれば家村に車の用意を……」
「問題無い、近場に行くだけだ。何かあれば携帯を鳴らせ」
「解、りました……」
車も出さずに近場に出ると、イレギュラーな行動をする俺に、秘書は詰まりながらも返事を返す。俺はスタスタと秘書室を出て会社を後にする。
会社を出て兄にその旨を連絡すれば、すぐに部屋番号だけ送られてくる。俺はそれに了解。と返事をして指定されたビジネスホテルまで歩く。このビジネスホテルも系列店になる。会社の近くにある為、ほぼ自社の社員が使用する事が多いと昔秘書が言っていた。残業で帰れなくなった者や出張で使用したりと会社に近い事もあるが、どうやら社員には割引券も配布していて気軽に利用出来るようにしているとか。ビジネス街にある立地で社員以外にも需要はありそうだ。
歩いて十五分位で目的地に着き、指定された部屋まで向かう。昼過ぎの時間帯もあり、客は少なそうで清掃員が部屋を回っていた。
コンコンコン。
ドアをノックしてしばらくすると、ガチャリと鍵が開く音と共にドアが開く。
「入りなさい」
出迎えてくれた兄に軽く会釈しながら部屋へと入り、座るところが無く取り敢えず立っていると
「ベッドへ」
後から入って来た兄が俺にベッドに座るように促す。俺は二つ並んであるベッドの一つに腰掛けると、兄はテレビが置かれているカウンターに付属している椅子に座る。そうして俺の真正面で脚を組みながら
「どういう事だろう将臣。説明してくれないか?」
と、無表情で静かに言い放つ。その兄の態度に俺はゾワリと項に鳥肌が立つ。
「何……をですか?」
理由は解らないが兄は俺に怒っているようだ……。こういう時の兄には逆らわない方が良い事をよく知っている。だが、何に対して怒っているのか理解出来ない俺は、説明のしようがないと聞き返してしまう。
俺の返答に兄は鼻から大きく息を吐き出すと
「何度も私はお前に言っているね? SwitchはDomやSubより命のリスクが上がると」
「えぇ……聞いてます」
「なら何故、今のお前はそんな状態なんだろうか?」
言いながらニコリと微笑まれ、俺はヒュッと息を吸い込む。
「レセプションパーティーの時は大丈夫そうだったじゃ無いか。それなのに今はその有様だ」
どういう事なのか説明しろと笑っていない目で問われ、俺はハク……と唇を動かし空気を噛む。
すぐに答えられない俺に対して、兄は苛立ちが募ったのか再び溜め息を漏らすと
「今はお前と私だけ。会社では出来ない話しだし、かと言って車を出せば家村に疑われる。最善だと思ってお前をここに呼んだ私は対応が間違っていただろうか?」
「イエ……そんな事は……」
「ふ……む、言い方を変えよう。家村と何があった?」
「ッ………」
単刀直入にズバリと言われ、俺は兄と合わせていた視線を外し
「……プレイする事を、止め……ました」
ボソボソと呟いた台詞に兄はしばらく黙っていたが、長い脚を組み替え
「仕事に支障は?」
「……ありません」
それは嘘ではない。いくらここ最近プライベートが糞でも、仕事だけはキッチリとやり遂げている。それは奴の前で弱さを見せたくないという想いからだ。関係が終わって女々しく引きずっている自分を見せるなど俺のプライドが許さない。
「そうか……」
俺の答えに納得したのかどうか解らない返事に、次の言葉を待っていると
「ジャケットを脱ぎなさい」
「……………え?」
突然、そんな事を言われ俺は固まり兄を凝視するが、兄は思いの外真剣な顔付きで
「何もしないまま今以上に苦しむか、今少しでも私とプレイするか……。馬鹿でも解るだろう?」
呟く兄の目の奥は、まだ俺に対して怒りの色が見えている。それに俺には拒否する理由も無くて……。
素直にスルリと肩からジャケットを落とす俺を兄はジッと見ていたが
「Switch」
と兄は静かに呟く。
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