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第13話

 兄とのプレイが終わった後 『知り合いの連絡先だ。プレイする相手が見つからなければ連絡してみるといい』  と言われ渡された名刺。  名前を見れば何度か兄と一緒に会った事のあるDomだ。確か外資系のバンカーだったはず。仕事が忙し過ぎて未婚、独身貴族を謳歌していると聞いたような……。  役員室のデスクに座り、取り出した名刺を眺め俺は溜め息を吐き出す。きっと相手はこちらが頼めば快く快諾してくれるだろう。それに兄の友人だ、人に漏らす事も無いはず。   だが……。  先程までの兄とのプレイを思い出して、俺はギッと鈍い音を出しながら椅子の背もたれに体重をかける。  俺を心配して行ってくれたプレイ。いつも通りの事だと俺も受け入れた行為だ。これで少しでも体調が良くなれば……と。けれど蓋を開けてみれば兄のコマンドに対して感じたのは不快感だった。自分よりも強いDom性の兄にプレイをしてもらっているはずなのに、それは一度金で買った自分よりもDom性が劣る奴にプレイをしてもらった時のような……。  兄はすぐに俺の変化に気付いてプレイを中断してくれたが、俺は兄のコマンドを受け入れない自分に戸惑い、そうして泣きたくなる程おかしくなった。  家村との関係はたかだか数ヶ月の出来事だ。なのに何十年もプレイしてきた兄を受け入れられない程俺の中に入り込んでいたという事実に笑えてくる。このまま家村と今の状態なら、俺は確実に……。  最悪の文字が頭に浮かんで再び名刺に視線を落とす。  兄以外のDomとプレイをして自分が受け入れられなかったら……。本当に駄目という事だ。だが、違う相手に家村の事を塗り替えられる人がいれば……。 「賭けになるのか……」  首を天井に向けて鼻から息を出し、両目を閉じる。と  コンコンコンコン。  ドアをノックされ、ハッと目を見開き返事を返す。するとガチャリとドアが開き秘書が入って来るとお辞儀して 「本日の業務は終了致しましたが、専務はいかがなさいますか?」  と、残業するのか? の聞いてくる。俺はしばし無言で優先順位の高い仕事を思い出し時間の振り分けを頭の中で行った後 「イヤ、……今日はもう帰ろう」  そう言いながらデスクの上に出していた名刺を引き出しの中へとしまい、立ち上がる。  秘書とは会社を出て別れ、視線を上げれば車の後部座席を開けて待っている家村が目に入る。俺は無言のまま車に乗り込みドアが閉まるとすぐに窓へと視線を移す。ユックリと走り出した車内はいつものように緊張を纏っていて、俺は体調の悪さと車内の雰囲気の悪さにネクタイを少し緩めた。  視線を外に向けていても、意識は車内の家村に向いている。俺がネクタイを緩めた辺りからバックミラー越しにチラチラと奴が俺を見ている気配が伝わり、変に緊張感が増す。  いつもならミラー越しでも見ない奴が、何が気になるのか……。見られていると意識してしまえば、ゾクリと淡い感覚が俺の体に纏い微かに期待してしまう。  信号で車が停まったタイミングで、俺は小さくコクリと喉を鳴らし口を開く。 「何か、言いたい事でもあるのか?」  至って平静を装い俺も一瞬ミラーへと視線を泳がすと家村と視線が絡んでドクンッと鼓動が跳ねる。 「…………、アンタからアンタじゃないDomの匂いが……」  ボソボソと呟いた奴の台詞を聞き、兄のフェロモンがそんなに強く付いたのだろうか? と気付かれないようにスンと空気を吸い込む。だが自分では匂わず無言でいると 「良い相手が見付かりました? それとも俺と同じで金でどうにかしたんですか?」  家村の冷たく言い放つ言葉に、俺は眉間に皺を寄せミラーをもう一度睨み付けるように見ると、奴もまた眉根を寄せて俺を見ている。 「……………ッ、関係無いだろう」  久し振りにした会話だったが俺が期待していた言葉では無い発言に、急激に指先が冷たくなるのを感じて俺はギュッと手を握る。  信号は赤から青に変わって、奴はミラーから視線を正面に戻すが俺の台詞に苛立ちを隠す事をせず 「女ですか? それとも男? ……てかプレイだけで満足出来ましたか?」 「何が、言いたい?」  煽るように言う奴に、俺の声音も低くなる。 「奥さんいるのに俺とあんなプレイしてたんじゃ、女は抱けないですよね? じゃぁ相手はやっぱり男ですか?」  俺を傷付けたいと解る物言い。奴の台詞にドクドクと心臓が早鐘を打ち出し、俺は奥歯を噛み締めるが次いでは 「オイ、車を停めろ」  と、静かに懇願する。 「は? ……無理に決まってるでしょ。それに言い返さないって事は、図星で……」 「停めろ。と言っている」  家村の言葉を最後まで待たずもう一度静かに言った俺に、奴はユックリと車を側道に付けて停まる。俺は車が停まった途端、自分で後部座席のドアを開けて車から降りると、ガードレールを跨いで歩道へと入りスタスタと車から離れるように歩き出す。  突然俺が車から降りると思って無かったのか、奴は慌てたように運転席から降りて 「ちょっ……と! 何処行くんですかッ!」  後ろから大声で叫ばれ周りで歩いていた人達がザワついているが、俺は奴を無視して歩き続ける。だが、車のドアが閉まる音がして家村が後を付いて来るのが解ると振り返り 「付いて来るなッ!」  一言だけ叫び返し再び奴から踵を返すと俺は歩き始める。少しフラつきながら歩いているとすれ違う何人かと体がぶつかり、俺は弾き出されるようにガードレール側に追いやられる。俺は立ち止まり冷たく微かに震える指先でガードレールに手を付き、そこに持たれるように腰を押し付けて立つと顔を下に向け細く長い息を吐き出す。  何が期待して……だ。他のDomの匂いに嫉妬して何かアクションがあるかと都合の良いように解釈してしまった自分が恥ずかしい。家村から感じた嫌悪とその言葉にギリギリだったものが溢れ、あれ以上は受け止めきれなかった。ともすればすぐにでもサブドロップして倒れてしまいそうな体を落ち着かせようと深呼吸するが、下手をすれば過呼吸になってしまいそうだ。  俺はギュッと両目を瞑り、片手をもう一方の腕に回して自分自身を抱き締めるようにする。何度も心の中で落ち着けと言い聞かせ下に向けていた顔を上げて目を開けば、視線の先には楽しそうに寄り添い笑い合っているカップルが飛び込んでくる。無意識にその二人を目で追っているのに気付き、ハッ。と自虐的に笑って再び視線を下にさげ、おかしさに肩が微かに震えた。  昔からそうだ。誰一人俺を見てくれる人はいなかった。両親も幼い時から兄だけ。兄も愛してはくれたが結局は大切な人を見付けた……。美鈴も、弟の英臣も……。皆、自分の大切な人を見付ける。俺は……、俺だけがずっと一人。Switchというダイナミクス性で、DomもSubもノーマルでさえ上手く相手を見付けられない。Domの時はSubが必要で、Subの時はDomが必要だ。どちらか一方ならば間口は狭く受け入れてくれる人もいたかもしれない。何人かのSubと付き合った事があるが、Domも必要な俺は一人に絞る事が出来ない。それになまじDom性も強く、自分より強いDomを探さなければならなかったし、見付けられなければ兄とのプレイで欲求を消化してきた。付き合った相手からしてみれば、兄との関係性を知らないとはいえ依存している俺に対していい気はしなかっただろうし、浮気を疑われたり嫉妬に狂った相手と上手くいった試しがない。しかも性嗜好がゲイの為更に間口は狭くなる。全てに疲れて今の形に落ち着いた。Subは適当に相手を買って、兄に自分のSub性を満たしてもらう。それが一番楽で、相手も自分自身も傷付かない方法だったからだ。  だが、家村と出会ってしまった。  奴は俺を何故だが解らないがパートナーにしたいと言って、俺自身を見てくれた。  俺の家柄や地位じゃ無く、橘将臣という一人の男として見て、大切にしてくれていたと思う。俺も奴には言っていなかったが家村とプレイを始めてから金で買ってプレイするSubは女だけにしていた。 「……結局は上手くいかなかったケドな……」  既婚者だと黙っていたし、プレイを金で買っていた。ゲイだとも言わず結局最初から全て自分を守る為に奴を傷付けていたのだ。それが今全部自分に返ってきている…… 「お兄~さん、どうしたの? 何か気分悪そうだね、大丈夫?」  後ろから声をかけられるが、相手にする気にもなれないし状況でも無く俺は無視を決め込む。 「聞こえてる~? 無視はやめようよ」  だが相手は無視している俺にしつこく言葉を投げかけてくる。 「お兄さん、気分悪いなら介抱してあげるけ……」 「うるさい、放っといてくれないかッ!」  俺は苛つきながら後ろを振り返り相手に文句を言って顔を見ようと顔を上げれば、ガードレール越しに立っている男が一人、ニヤニヤと俺を見ている。そして男の後ろにはバンが停まっているがその後部座席のドアは開いていて……。 「放っておけないンだよね」  ニヤついた口からそう言った途端、開いているドアからもう一人男が降りてくると、ガードレールを越えて俺の真正面に立つ。 「何だ、お前達……」  ヤバイ雰囲気に俺はガードレールに付けていた腰を離し、真正面にいる男の脇からすり抜けようと足を一歩出すと、ズイと男が近付き突然しゃがむと俺の足に手をかけ持ち上げる。 「オイッ! 何し………ッ」  バランスを崩して後ろに引っくり返りそうになりながら声を出すと、後ろにいた男が俺の口を塞ぎ上半身を支えている。  ヤバイッ! 拐われる!?  こんなに人が行き交う中で堂々と俺を持ち上げバンの中へ入れ込もうとするが、俺も最後の抵抗と言わんばかりに空いている手で開けられたドアに手を付いて体が入らないようにするが、車の中にもう一人いたのかヌッと伸びてきた手が入らまいと力を入れている俺の手首を握りグッと力を入れて中へと引きずる。 『え? 何、ヤバくない?』 『喧嘩か?』 『何だ?』  周りにいた人達もただならぬ雰囲気にざわついて人だかりが出来るが、だからといって止めに入ろうと思う人間はいないらしい。俺はそのまま車の中へと吸い込まれるように入れられると、足を持っていた男がバンの中へ入りドアを閉めてしまう。 「オイッ、この男で合ってんのか!?」  俺に声をかけてきた一人が、運転席では無く助手席に座っている奴に声を荒らげながら聞くと、恐る恐ると言った感じで声をかけられた奴がこちらに振り返る。  …………………。コイツ、どこかで……。  気弱そうな奴は俺と目が合うとすぐに視線を逸らし 「そうです、間違いありません」  と、声を震えさせながら答えた。 「本当にこの男で間違い無いんだなッ? それにコイツがそうなんだろうな?」  ……そう。とはどういう事だ? 何を確かめている?  コイツ等の意図が解ら無いが、口を塞がれている為喋る事も出来ない。そう思っているとバンのドアを閉めた奴が長い布を俺の顔へと近付け素早い動きで手から布へ口を塞ぐのを変えると、俺の手首を持ってバンへと引きずり込んだもう一人が俺の両手首を結束バンドで縛ってしまう。 「そ、それは……確かではありません。その可能性が高いってだけで、確証は……」 「あぁ!? そうだって聞いたからコッチは手を貸してやってんだろッ!」 「ヒ、ヒィ……」 「オイ、止めろ。確かめれば済む話だろ?」 「そ~そ~」  男達のやり取りを聞きながら頭をフル回転させ、俺は助手席の男を思い出そうとしてハッとする。コイツは確か何ヶ月か前に会食で会ったノーマルの……。  会食と言う名の接待で確か個室のレストランで会ったはずだ。相手の専務が気を利かせたつもりでSubの給仕を用意した……。  その時俺は今と同じように体調が悪く、相手の専務が給仕のSubにコマンドを発して俺も引き摺られそうに……。  その瞬間、相手が俺の何を確かめたいのか理解し、全身にゾワリと気持ち悪い感覚が纏った。 「Switch」  俺の口を布で塞いだ奴が俺に対してそう言葉を放った刹那、ブワッと全身の毛穴が開き次いでは鳥肌が立つ。このバンに乗って俺を拘束した奴等は全員がDomだが、俺よりもDom性が弱い為気持ち悪さが先に立つ。だからといってSubになれないワケじゃ無い。Domに言われれば俺は等しくSubに切り替わってしまう。 「グッ……エ゛ェ……」  何度か気持ち悪さに空嘔吐を繰り返した後、胃に何も入っていなかった俺は胃液を吐き出してしまう。 「オイ、俺の車を汚すなよッ」  運転席に座っていた奴が嫌そうに言っているが、誰も返事をしていない。それどころか俺がDomからSubに切り替わった事を察した男達が 「本当にSwitchだったぞ……」 「早く動画撮れッ」 「わ、解ってますよ」  助手席の奴が慌てながら俺にスマホを向けてくる。俺がSwitchである事を証拠として動画に納めるつもりだ。隠してきた弱味を握って、後にどれほど汚い使い方をするのか想像出来てゾッとする。抵抗したいが弱っている今の自分にその力は無い。自分よりも弱いDomの支配下に気持ち悪さと徐々に体温が下がっていく感覚を覚える。 「何でもいい、コマンド……」 「オイ、撮ってるよな?」 「よし……、Dow……」  ガラッ。  Domの一人が俺に対して『Down』とコマンドを言いかけた時、不意にバンのドアが開く。 「何やってる?」  全員がドアへと視線を向ければ、そこに立っていたのは家村だった。 「あ? 何だお前ッ!」  男の一人がそう家村に威嚇するが奴は真っ直ぐ俺を目で捉え、そうして俺の現状を理解するとすぐにGlare状態になる。  GlareはDomが相手を威嚇する為に使う圧みたいなものだ。Dom同士であればどちらが上の立場か測るために、Subやノーマルであれば強制的に支配下に置き跪かせる為だ。  家村のGlareは圧倒的で、周りにいる全員が動きを止め狼狽えている。俺も例外無く初めて感じる奴の重すぎる圧に、問答無用で首が下を向き項を晒す格好を取ってしまう。 「な、何だよコイツ……ッ」 「オイッ、誰だお前ッ!」  俺の周りにいる弱いDomが怯えながらも虚勢を張るように強がって吠えているが、家村には全く脅威にはなっておらず、反対に奴がGlareはそのままに手前にいた男の胸ぐらを掴む。すると掴まれた男は家村の圧によって恐怖でパニックになり、パンツのポケットに入れていた折り畳みのナイフを取り出し家村目掛けて振り上げる。だが家村は落ち着いていて、無言で相手の顎目掛けて拳を振るう。 「ガッァ……ッ」  家村の拳は綺麗に相手の顎にヒットし、相手は濁った音を出してそのままその場に倒れる。 「テメェッ!」  俺の奥にいたもう一人の男が、俺を押し退けて家村に向かって行く。一度相手は大きく拳を振り回したが家村はそれを上手く避けて車から離れると、先程家村によってダウンした奴が握っていたナイフを掴み車から出て行くと、外で喧嘩が始まってしまう。通行人は突然始まった喧嘩に「キャーッ!」や「警察ッ!」等と口走っており、その場が騒然とし始めるがもう一人後ろにいた男も仲間を助けようと車から降りる。と、二対一の構図が出来上がってしまい、二人がかりで家村に向かって行っている。  俺は口の布を取ろうと、力が入らず震える指先でどうにか布を引っ掛けDefenceに陥っている家村を止めようと、口から声を絞り出そうとする。  Defenceは自分のSubが他のDomによって危害を加えられた時に、そのSubを保護しようと過剰になり、周囲に暴力的になってしまう行為だ。行き過ぎてしまうとこちらも傷害罪になってしまう恐れがある……。 「家村……ッ、止めろッ!」  絞り出した声は家村に届かず、俺は絶望する。意識が朦朧とする中で遠くから警察官が吹く警笛が聞こえ、俺はそこでドロップアウトしてしまった。  次に俺が目覚めたのは病院の個室のベッドの上だった。何がどうなったのか最後まで見届けられて無い俺は目が覚めた途端、状況把握よりも先に上半身を起こしてベッドから抜け出ようとしたが、俺の隣で家村が寝息を立てて横たわっており、一瞬にして体の力が抜けてしまう。  俺は再度ベッドへ横になると、家村の方へ体ごと向きを変えて視線を部屋へと移し、ここが病院だと悟る。俺の手の甲には点滴が刺さっているし、病院独特の匂いが部屋中に漂っているから。横にいる家村の顔を久し振りにマジマジと見詰めれば、口の端が切れてそこから広がるように痣があり俺は泣きたい気持ちになってしまう。  全て俺の我儘で関係が始まった。それに家村に対して俺は真摯に向き合う事もしていなかった。大切な事は隠して自分の良いようにコイツを利用しただけなのに……。それなのに家村は関係無いと突っぱねた俺の後を追ってあの場から助けてくれたのだ。それにサブドロップした俺が意識を戻せたのも家村のおかげだろう。気分が落ち着き、吐き気や目眩も無い。きっと、ずっと側にいてアフターケアをしてくれていたはずだ。  なによりあの時家村がDefenceしてくれた事が、俺には一番嬉しかった事だ。それはまだ家村の中で俺がコイツのSubだと言われているようだったから……。  ジッと見詰めていた奴の瞼がピクピクと震えたのを見て、俺は咄嗟に目を閉じる。 「ぅ……ン」  低く掠れた吐息が家村の口から漏れて俺はドキリとするが、そのまま寝たふりを決め込む。すると近くで奴が溜め息を吐き出した後、俺の前髪を梳くように指を絡め 「……いい子だ、好きだよ。……俺を一人にしないでくれ……」  と、囁き俺の額にチュッ、チュッと音を立てて何度かキスを落とすと自分の腕を俺の首の下へと差し入れ、そのまま抱き締めるような体勢になる。俺の体の上に回された手が後頭部へ回ると、優しく頭を撫でられ 「将臣、好きだよ……」  額を合わせて家村が愛おしそうにそう呟く。  俺はその言葉を聞いて、鼻の奥が痺れるようにツンとする。  ……もう、いいか。家村だけには全て言ってしまっても……。美鈴との関係や、兄との事、そしてDomとして育った橘という家を……。俺にとって……ひいては橘の弱味になってしまう事を、家村だけにはちゃんと説明して理解して欲しい。たとえ今奴が言っている事が俺を目覚めさせる嘘だったとしても、今度は俺が全力でお前を振り向かせれば良いって事だろう?  薄っすらと目を開ければ溜まった涙が溢れたが、それでもまだ目はぼやけていて俺は瞼を何度かパチパチと瞬かせる。  瞼を瞬かせた微かな音が聞こえたのか、目を閉じていた家村もまたユックリと瞼を開いた。 「………ッ」  まさか俺が本当に目を開いていると思わなかったのか、家村は俺の顔を見て息を呑んでいる。そんな奴の頬に指先をあて俺は微かに笑うと 「俺も……好きだ……」  掠れた呟きは聞き取り難いものだったが、俺の台詞に家村は目を見開き、次いで噛み付くように俺の唇を奪う。

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