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第二章 新しい恋の予感 01

 クリスマスシーズンに入った十一月半ば、にわかに街は賑やかになる。そして秋を感じさせないまま、今年はいつもより早い冬将軍がやってきた。 「寒いっ! 寒い、寒い!」  昼間のさんざしのレジ奥で、やたらと文句の多い男の声が聞こえていた。藤崎はクリスマス用のデコレーションアイテムを作っている。壁にかけるリースは大きい物から小さい物までいろいろだ。店内の天井からは模造だがLEDの付いている蝋燭が下がっていて、赤と緑の布で大きなリボンを模したオブジェも垂れ下がっている。  店頭にはポインセチアの鉢が並び、柊の葉や銀ラメのツツジの枝も花桶に刺さってた。今年はデスクの上に置けるような小さなクリスマスツリーを作った。店の外も中も賑やかに彩られている。ガラス扉には白い縁取りのサンタクロースが飛び、クリスマスピックのトナカイや雪だるまが顔を覗かせていた。  昼間はそんなにお客様が来ない方だったのだが、ここ連日はさすがに忙しい。  毎年、今くらいの時期はすでにストック分などまで手が回っていたが、今年はほとんど間に合わずその日の分だけで手一杯だった。おまけに美澄にまで手伝いに来てもらっている。  だから寒いと文句を言う彼に対しては、なにも言わずにストーブの前を譲ることにした。 「こっち来てください。ストーブの前、交代しますから」 「え? いーよー。お前の方が体弱いだろ? 俺はお・じ・さ・んだから感覚麻痺してるんですよー」 「な、なんですかそれ。この間のことまだ根に持ってるんですか? それに僕、体弱くないですから。この商売がどれだけキツいか知ってるでしょうに。ついでに、寒いって言ったからって、暖まりませんからっ」  藤崎はそう言いながらストーブの正面を美澄へと向けた。彼はいらないと言いつつも暖かいのかジリジリと近寄ってくる。花の水切りをしている藤崎は、そんなに近づけないのでストーブはあまり効果がない。 「そもそもこのストーブ、美澄さん用に買ったものですよ」 「え、そうなのか?」 「今ごろですか」  本当は知っているくせに彼はそんな風にとぼけてみせる。ニヤニヤした顔を見て、本当にたちが悪い、と藤崎は思った。それでももう七年の付き合いになる彼を嫌いではないし、いろいろな面からのサポートは本当に助かっている。 (美澄さん専用がどんどん増えてきてるし)  特に奥村が亡くなってしばらくの間は、藤崎の精神状態は普通じゃなかった。美澄がいなければきっと藤崎はこの世に存在しなかったかもしれない。本当の父親は小さい頃になくなってしまったけれど、生きていればこんな風に自分を支えてくれたのだろうか。新しく迎えた義父もやさしかったが、やはり他人であるという感じは拭えなかった。 「藤崎」 「はい?」  背中を向け作業に没頭していると、美澄に声をかけられた。けれどなにも言わないものだから、どうしたのかと振り返れば美澄の真剣な顔があった。 「俺、お前のこと好きだよ」  店内に流れる有線の曲がラストクリスマスに切り替わった。しばらくの沈黙の後、藤崎はにっこりと微笑んだ。 「はい。ありがとうございます」  そして、僕も好きですよ、と言ってから作業に戻った。 (急に真面目な顔をしてどうしたんだろう?)  何を言い出すのかと思えば、好きでなければここまで甘えたりはしないし、頼ったりはしない。浩輔がいなくなってからはいつも美澄が近くにいて、とっくに家族のような感覚になっている。  藤崎が答えた後も美澄は黙ったままで、いつもと様子が違うな、と再び振り返れば、苦い顔で何か考えているようだった。 「僕、アルバイト募集しようかと思うんです」  しんみりした空気を打ち消すように、藤崎は明るめの口調で話題を振った。 「え?」

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