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「き、昨日!? 昨日って、ちゃんと警察には……」
「届けました。でも、お金が手元に戻る可能性は低いと言われました。詐欺をするつもりで近づいたんだろうと。会社を辞めてしまってからこんな事になって、次の職場を探す気力もなくなっていたんです。でも、仕事がないと生きていけないですから。それで、見かけたアルバイト募集に、応募しようかと思ったんです」
神妙な面持ちで下を向いた真宮を見て、藤崎はじわじわと腹が立っていた。
(なに? それってどういうことなんだ?)
詐欺にあってお金を取られたことは同情する。それよりも、何でもいいから、とコンビニのバイトと同じように考えられたのかと思った藤崎は、胸の中に嫌なものを感じた。さらに煽ったのは、真面目で真っ直ぐで、あまりに正直すぎるそんなところまで、奥村に似ているからだった。
「旅行会社と花屋は全然違う職種だよね。次の仕事の繋ぎにすればいいと思った? 簡単に花を売ってれば、お金がもらえるからって思った?」
そんな苛立ちが藤崎の声音にも表れた。普段はこんなに低く、感情を剥き出しにしたような言い方はしない。得もいえぬ悔しさがこみ上げてきた。
「……っ、ち、違います! 仕事が欲しいのは本当です。でも花屋を軽く見ていたわけではないです。プランニングの仕事をしてましたけど、以前に花屋でアルバイト経験もあるんです! それに……」
能面のように表情をなくした藤崎と目が合った真宮は、言葉を失って下を向いた。太腿の上に置いた両手がギュッと力を入れたのが分かる。
「あなたと……仕事がしたいと、思ったからです」
思いがけない返答に藤崎は固まった。予想していた返事とはあまりに違いすぎて、一瞬その意味を理解することができなかった。アルバイトの面接で、こんなことを言うものなのだろうか。藤崎はそう考えてながらも、もう少し話を聞いてもいいのではないかと心が揺れた。自分よりも年下の男が顔を赤くして、長い睫毛を震わせている。
「どういうこと?」
どんな思いで今の言葉を言ったのか、その真意には興味が湧く。
「花関係のバイトをしたことはあります。だからどれだけ大変な仕事かも分かっています。期間は短くて店頭販売しかさせてもらえなかったけど、それでも簡単にできるとは思っていません。適当に決めたわけでもありません」
顔を上げた真宮の目は真っ直ぐ藤崎を見つめてきた。とても意思の強いものを感じ、この場凌ぎの嘘ではないことはすぐに分かる。
「旅行会社で学んだのは、仕事はすべてにおいて人との繋がりが大事だって事でした。この人と仕事がしたい、この人とこんな所へ行きたい、そんな想いから動くものだと思いました。だから……」
「だから、僕と仕事がしたい?」
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