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 時刻は十五時を回った頃だ。いつもなら客足が一番落ちる時間帯だが、まだ若い女性に二、三人に囲まれている。明らかに彼女たちの瞳の中はハートになっているのだ。 「なあ、なんかすごいな」 「やっぱりそう思います? ああ見えても仕事すごくできるんですよ? 真面目だし、覚えは早いし頭もいいし。それになんかこう、人を惹きつけるやさしい雰囲気があって……」 「へぇ、そんでお前はあんな顔してたわけだ」 「へ? あんなって、どんな顔ですか?」  じっと藤崎を見ていた美澄の目がじっとりと据わっていく。そして二、三度瞬きをしてから手を伸ばしてくる。 「なっ、なにひへるんでふか……」  頬を両側から引っ張られ、藤崎は、もうっ、と美澄の両手首を掴んで強引に引き離した。 「子供みたいなこと、しないでくださいってば」  外には真宮もいてお客様もいるというのに、こんな所を見られればきっと笑われてしまう。 「店長、あの……」  美澄の手首を掴んだままで睨んでいるところへ、真宮がカーテンから顔を覗かせた。 「はっ、はい!」  驚いて美澄の手を離し、サッと真宮の方へと向き直った。変なところを見られてしまったかもしれない。あとで言い含めておかなければ、と藤崎は思いながら、取り繕うように頬を引き攣らせて笑って見せる。 「あ、あの、花の予約をしたいって人が……」 「はいはい、じゃあ僕が接客するね」  慌てながらカーテンを抜けて店先へと向かう。  予約をしたいと言ってくれた人は、さんざしのホームページを見て来たお客様だった。友人のお誕生日に花を持っていきたいという若い女性だ。店先に出るとほんのり頬を赤くして真宮を見ていた女性が、藤崎を見てハッとした。やはり格好いい男性に接客して欲しいと思うのは、世の中の女性の希望なのだろうか。  自分は女の子みたいな顔だし、と心の中ではやっかみの感情が湧いてくる。けれど花屋の店員という仮面を被り、来てくれただけでもありがたいと思いつつ注文を受けた。 (忙しくてページも更新していないし、そろそろ考えないとな)  何気なく奥にいる真宮へ目をやると、美澄の毒牙にかかっているようだった。 (まったくあの人は……)  そう思いつつも二人が話しているのを見ると、どこか切なく懐かしいような気がしてくる。藤崎の中にある昔の記憶とダブって見えたのは、奥村と背格好が似ているからだろうか。

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