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 美澄の車で市場から帰ってくると、すでに店先のテントが下ろされ、開店の準備をしている真宮の姿があった。彼の母親が来てから数日が経っていたが、今だそのことを話せないでいる。話さなければと思うのに、真宮は入った当初よりもアクティブに仕事を教えて欲しいと言いはじめ、余計に切り出せなくなった。そして同時に彼に対する疑問も膨らんでいく。 (どうして黙っていたんだろう)  彼の母親の話しだけでは、それが本当なのか信用できない。かといって、真宮に話すこともできないままで、藤崎は悩んでいた。 「あ、お帰りなさい」  車を店の前に止めて助手席から藤崎が降りると、店内から眩しい笑顔で真宮が出てくる。咄嗟に顔を逸らしてしまい、どうしてもいつもと同じ態度が取れない。 「お、おはよう」 「天気もいいですからね。美澄さんもおはようございます」 「おー若人よ、元気だのぉ」  そんなのんびりした声で、運転席から手を上げて返事をしている様は相変わらずだ。ワンボックスの荷台から花の入った箱を次々と下ろし、さんざしの店の分が終わると美澄はすぐに次の配達店へと行ってしまった。運び込まれたものをエリアごとに大まかに仕分けて積み上げる。 「店が狭いとやっぱり大変だよね」  箱の中身を出して作業台へと並べていく。真宮と並んで花の手入れをはじめた。花桶へ入れたときに邪魔になる葉はある程度取っていく。その次に水切りをして水揚げをしてやる。花桶に入れる時も、買い手が「キレイ、欲しい」と思えるように、展示の仕方も工夫を忘れない。  展示ライトの下に置いて色味が綺麗に出るもの、日の光で綺麗に見えるものは、それぞれ違う。毎日入ってくる花の種類も少しずつ変わるので、その花の特色を考えながらの作業になる。藤崎も未だに勉強することは多い。花桶の配置も毎日変わるため、その辺りはセンスを問われるのだ。 「変なこと、聞いていいですか?」 「ん? なにかな?」 「藤崎さんは、結婚とか考えたことありますか?」 「ど、どうしたの? 急に……」  なぜこのタイミングで切り出してきたのか、驚いて真宮の顔を見るも、彼は作業の手を休めていなかった。思わぬ質問にドクドクと心臓が早鐘を打った。 「いえ、何となくです。自営業って出会いとか少ないのかなって思ったんですけど、よく考えたら女性のお客様が多いし、藤崎さんはどんな人が、好みなのかなって……思って」

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