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 今回のバイト募集で、面談に来てくれたのは真宮だけだったが、その後にも電話で問い合わせが数件あった。けれど、真宮が来てからすぐに募集の紙を剥がしてしまった。真宮意外の誰かを探そうという気が無いくらい、第一印象で彼に惹かれた。奥村に似ているということを差し引いても、彼の物事に対する考え方が気に入ったからだった。  他愛もない話しながら作業を進め、新しく入荷分の処理を終わらせた。花によっては水揚げの方法が異なるものもあるため、その分は別によけておく。真宮の手際の良さも、藤崎に負けないくらいよかった。乱暴に扱うこともなく、花屋としては合格点をあげたくなる。華道の家に生まれたのだから当たり前だろう。 「藤崎さん、こっちは終わったのでシャッター上げて、できた分から外に出しますか?」 「それは僕がやるから、昨日の分でできそうなのお願いしていい?」 「分かりました」  真宮は返事をして店の奥へと入っていった。レジと自宅の間には、狭いけれど水場や保管用の棚などがあり、昨日まで店頭に並んでいた花がいくつか置けるようになっている。  その中にマーガレットが含まれていたことを思い出した。水切りなどはやりながら教えたりしていたが、マーガレットやクレマチスなどの特殊な湯上げはまだ教えていない。彼のことだから分からないものを勝手にどうこうしないだろうと思っていたが、少し不安になって見に行くことにした。 「真宮くん。昨日、残った分の中に……」  顔を覗かせてみると、マーガレットの茎部分に新聞紙を巻いて湯につけようとしている姿が目に入った。 「真宮くん、それ!」 「え?」  止めようとして声をかけたが一足遅く、湯の中へと花の茎がザブンと浸けられた。 「水! 桶に水用意しとかないとっ」  藤崎は慌てて近くにあった桶に水を張る。そして数秒お湯に浸けた花の茎を、真宮の手を掴んで冷水へと入れる。 「す、すみません。マーガレットって湯上げするんだって、調べたら書いてあったので……」 「うん、間違ってないよ。でも水に浸けて温度差で水揚げさせないと枯れちゃうから。流水とかじゃダメなんだ」 「そう、なんですか? すみません。俺、勝手に……」 「ううん。調べてやってくれたんでしょ? 謝らないでいいよ。でも新しい事をする時はひとこと声かけてね?」  水を張った桶の中で、マーガレットを持った彼の手を掴んだまましばらくジッとしていた。妙に緊張するのは、手が触れているからなのか、離すタイミングを見失い沈黙したからなのか分からない。

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