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 彼の指先が微かに動いた。 「藤崎さん、指先荒れてますね」 「まあ、これが花屋のデメリットってやつ」  仕方がないよと笑えば、真宮は藤崎の右手を掴みそのままザブンと水から引き上げた。そして妙に意味深に指先を撫でるようにして来るので、変な気持ちになってドキドキしてしまう。 「な、なに? どうしたの……」 「ああ、あの、俺が使ってるハンドクリーム結構よくて、植物性で何度も塗り直さないとダメだけど、花にはやさしいやつです」  左手で桶の中の花を持っていてください、と言った真宮は、腰にかけているタオルで手を拭いてポケットからチューブを取り出した。同じタオルで手を拭かれ、チューブから出した白いクリームを塗ってくる。されるがままに藤崎は黙って手を差しだしていた。水に浸けていたせいで火照ったように指先までが熱くなっている。ゆっくりとやさしく、指先から股までを彼の大きな手がマッサージをするように塗り込んでいく。 「これ、多分気に入ってもらえるかと思いますよ。匂いもないし、それに……」  何かを言いかけた彼は、顔を赤くして藤崎を見つめていた。動かす指がどこかセクシャルな大人の色気を纏わせてきて、藤崎はピクリと反応する。 「あ、ありがとう。こういうとこ、僕はいい加減で、適当にしちゃう、から……。助かる」  照れくさくて思わず下を向いてしまった。真宮の手に触れていると、あの夜の人肌を思い出してしまう。そんな藤崎の言葉に彼の手の動きも徐々に濃厚さを増してくる。手のひらに触れ徐々に手首まで撫でられると、ゾクゾクと腰に痺れたような感覚が走った。そこは荒れてないよ、と口を開こうとして、ひと足先に真宮が話しだした。 「俺、藤崎さんに謝らないといけないことがあるんです」 「え?」 「あの夜、俺、本当は……」  言い淀んだ真宮は、言葉を選べず黙ってしまったようだった。戸惑うような感じは、言いたくても言えない歯がゆさが見える。藤崎には「あの夜」がいつのことかすぐに分かった。  一瞬で蘇るあの醜態を思い出せば、体の芯が火照るように熱くなる。それはきっと顔にも出ているはずだ。すぐに赤くなる方ではなかったが、自分でも分かるくらいなのだから、他人が見ればすぐに気がつかれてしまうだろう。  顔上げた真宮が何かを言いかけた時だった。 「すみません、おはようございます――」  店先で女性の声が聞こえ、とっさに触れあっていた手を離した。急に引き戻された現実に羞恥がこみ上げてくる。尋常じゃないほど心臓が高鳴っていて、先ほどとは違う焦ったような恥ずかしさで耳まで熱くなる。

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