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「は、はーい。今行きます!」  ごめんねとありがとうを真宮に残して、藤崎は接客へと向かう。全身が熱くなるこんな感覚は久しぶりだった。ずいぶん忘れていた感覚は、胸の真ん中をじんわりと熱くさせる。懐かしいような切ないようなそれは、いつまでもそこに感覚を残していた。  きっとあの夜のことが引き金になっている。だから少し触られただけでも頬が紅潮する。  奥村を亡くして、もう新しい恋なんてできないと思っていた。あの人以上に好きになれる人なんていないと決めつけていた。だからこんな風に体が反応する自分に驚いている。 (――どうしよう)  藤崎は高揚したような心を必死に押さえながら平静を保った。 「ゆうちゃん、ごめんね。まだ営業時間じゃないのに来ちゃって。あら、今日はどうしたの? 少し顔が赤いわよ?」  花を買いに来たのは近くの常連さんだった。オープンからよく買いに来てくれる年嵩の女性だ。今日は娘夫婦が家に来るからと、室内に飾る花を買いに来たのだという。 「え、そうですか? 風邪引いたかなぁ」 「気をつけないと。最近インフルエンザが流行りだしたってニュースで言ってたから」 「そうなんですか? インフルエンザは困りますね。そうなると休業になりますから」 「でも、優秀なバイトの子がいるから平気だわよ。あ、そうそう。花苗始めたでしょう? 私の近所の奥さんも喜んでたのよ。ゆうちゃんはセンスがいいから。黒板のあれも、かわいらしくていいわよね」 「そう言ってもらえると、やりがいあります。なにかリクエストがあったら言ってくださいね? できるだけご意見に添えるように頑張りたいので」 「あら、そうなの? うれしいわ。じゃあマーガレットなんてどうかしら。切り花も置いてあるけど、苗から育てるのもいいかなって思ってるの」 「そうですね。植えるなら今の時期からですからね。じゃあ少し考えてみます」  藤崎はエプロンのポケットからメモ帳を取りだし、忘れないように書き付ける。こうして話しているうちに、さっきまでの高揚した火照りが落ち着いていくようだった。  お客様が選んだ数本の花を持って奥へと向かい、通常の包装をして袋に入れ、商品を手渡した。 「ありがとうございました」  頭を下げて見送り姿勢を戻すと、クラッと軽く目眩がした。言われた通り体のだるさも感じるし、本当に風邪なのかもしれない。おまけに背中に感じるゾクゾクする悪寒は、時間を追う事に激しくなっていった。  クリスマスが近づくと客足は徐々に増えてくる。いつもなら忙しくない時間帯にも関わらず、バタバタと立て続けに買いに来るお客様があった。店内のリースやクリスマス仕様の様々なアイテムもひと通り作り終え、真宮と一緒に接客をしていた。  オープン前、官能的に塗ってもらったハンドクリームはすでに流れてしまっていた。切るような水の冷たさと、一日ごとに寒くなる冬の風が容赦なくとどめを刺してくる。

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