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09
「これ、どこから……」
呆然としながら画像フォルダを確認しにいく。何度かマウスをクリックし、ポインタを動かした。
――この辺のフォルダに画像とか入ってるので、好きに使ってレイアウトしてもらっていいから。
そう言ったのは自分だった。「K・T」という名前のフォルダは奥村のスケッチブックから取り込んだものを格納している。おそらく真宮はその中からこれを選んでトップページに置いたのだ。
――ここのホームページの写真と同じお花を見たわ。
ゾワッと背筋に悪寒が走った。これが誰かの目に止まり、同じアレンジで花を作ってホテルに置いたのか。だが、そんなに短い時間で作ったとも思えない。でもさっき聞いたのは冗談ではなさそうだった。
(……そんな、これと同じものが?)
フッと息を飲んだ藤崎は、苦しくなる胸をシャツの上から掴む。緊張は口の中から水分を奪い、嚥下すればピリッと痛みを訴えた。
奥村が大切にしてきていたデザイン画を誰かが真似たのか。事実ならもうこのデザインは使えない。いくつかあるスケッチの中から、真宮が選び出したのは奥村がコンベンション用に出したいと言っていた第一候補の作品だった。こんなケアレスミスをしてしまうなんて信じられなかった。
藤崎は浮かれていたのだ。あの時、隣に座っていた真宮に少なからずドキドキしていたし、今は恋心だとはっきり確信さえしてしまった。
「どうし……」
画面を見ながらショックを必死に押さえようとしても、握り締めた手がブルブル震えた。こんな形で彼の作品を世に出すことになるなんて思いもしなかった。逆流するような血液が激しく心臓を鳴らし、締め付けられるように胸が苦しくなった。
「どうですか? 藤崎さ……。ちょ、どうしたんですか!?」
焦ったような真宮の声が、バタバタと座敷へ上がり込んでくる音と共に聞こえる。遠くの方で自分の名前を呼ぶ彼の声がしていたが、まるで水の中にいるようにだった。体が傾き、それを支えられたのは分かった。けれど頭の中がグラグラと揺れ、張り詰めていた何かがプッツリと切れたように、目の前が歪んで見える。
彼が必死に何かを言っているが、藤崎は返事すらできなかった。
目眩と急激に襲ってきた頭痛に呼吸は苦しくなり、意識は霞んでいく。最後に叫ぶような真宮の声と心配そうな彼の顔が、網膜に張り付くようでつらかった。
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