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 全部が真っ暗で何も見えない。自分がどこにいるのかも分からずに、気持ち悪さだけが漂った空間で藤崎は浮かんでいる。ゆっくりと意識が覚醒し始めると、辺りが白く光に包まれ藤崎は目を覚ました。 「……ん」  腫れぼったい瞼は重く、少し開いても張り付いた睫毛がそれを阻んだ。目をこすろうと腕を上げたいのに、怠くて力が入らず持ち上がらなかった。ゆっくりと頭を動かすと見慣れた部屋の隅に、引き扉にもたれかかった真宮の姿が見えた。うつむいた格好で前髪が目元を隠すようにかかり、寝ているのかどうか分からなかった。けれど一人じゃないことにホッとして、大きく息を吐いた。どうしてこうなったのかをゆっくりと思い出し、胸の奥がギュッと痛くなる。 「……そう、か」  張り付いた喉からは、音にならない声で囁くようなものしか出ない。部屋の中には加湿器が置いてあるがあまり効果はなく、ヒリつく喉が痛かった。重くてどうしようもない体を動かし、布団からどうにか起き上がる。 「真宮、くん」  小さな声で呼ぶと、ビクンと揺れた体が弾かれるように上げられ、疲れた顔で慌てたように近づいてくる。 「ふ、藤崎さん! 起きたらダメですってっ。ひどい風邪ですよ? ほら横になって。過労もあるっていってました」 「うん……喉渇いて、水、欲しい」 「あ、はい。すぐに持ってくるので、寝ててください」  真宮は冷蔵庫の中からペットボトルを取りだし、グラスに注いで持ってきてくれた。横になっていたら飲めないな、と思っていると、スッとストローが挿された。 「用意いいね」 「ええ、看病は妹のことで慣れているんです」 「……そう。ありがとう」  水分を口に含めば、それは少しあまい味がした。きっと少量のスポーツ飲料を入れてくれたのだ。こういうときの細かい気使いは心に染みる。 「僕、倒れたの?」 「ええ。俺が見つけたときは、もうひどい状況で。とりあえずお店もあるし誰かに来てもらおうと思って、冷蔵庫に張ってあった緊急連絡先に電話をしました。店の方は俺が閉めたので大丈夫です。ただ、レジ関係はそのままです」 「そうなんだ。迷惑掛けてごめんね。それに美澄さんも、呼んでくれたんだ」 「……はい。美澄さんが知り合いのお医者様を連れてきてくれたので、診察もこの部屋で。薬の袋はそこです」

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