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「美澄さんが!? 今の病院からなんですね? 俺が行きますから、藤崎さんはここにいて。こんな体で出ちゃダメだ! 悪化するから……」  真宮が必死に布団へと戻そうとしてくる。その手首を震えながら握りしめ、精一杯の力で振り払おうとするが、彼の手は離れることなくしっかりと藤崎を捕まえていた。 「いま、今行かないと、ダメなんだ。もう、嫌なんだ……あんなの、もう嫌だ。なんで……なんで大事なもの全部、消えていくんだよ――。守りたいもの全部……父さんも、母さんも、浩輔も……」  最後の方は涙声でなにを言ってるか分からなかった。ただイヤだイヤだ、と何度も繰り返し、これ以上大切なものを失いたくないと首を振った。あの時の辛い気持ちなんて二度と味わいたくはない。だから今行かなければもう、きっと次はない。 「藤崎さんが自分の大事なもの守りたいって言うなら、俺だって同じです! 俺はあなたが大切なんだ。だから行かせない。絶対に行かせません!」  必死に洋服を出している藤崎の後ろから抱きしめてくる。それから逃れようと必死にもがくけれど解けなくて、離してと言っても、藤崎を押さえる力は緩まなかった。 「一人で背負わないで。辛いこと半分俺に分けてください。美澄さんはきっと大丈夫。もう一回電話して俺が聞くから。だから、そんな細い肩で震えないで。美澄さんを大事だって思う気持ちも全部、丸ごと俺が抱えるから……」  すぐ耳の横に真宮の顔がある。言葉を発する度に息がかかり、低く滑らかな声が鼓膜にジンジンと刺激を与えてくる。泣いているのかと思うくらい、彼の体も声も震えていた。 「なに、言ってんの……」 「浩輔さんの代わりになれるなんて思ってない。でも、あなたを――あなたの側にいることはできる。泣かないで、なんて言わない。わがままかもしれないけど、泣くときは俺と一緒に、俺の腕の中で……泣いて欲しいんだ」  あんなに取り乱していた気持ちがゆっくりと降下していく。冷えていくのとは違うやさしく静まる波紋は、徐々に一点に集中してくる。胃の辺りが熱くキュッと絞れるような感じだった。  あの時、奥村を失った時、美澄はなにも言わずに寄り添った。けれど真宮は、泣くときは一緒がいいと、腕の中で泣けと言ってくれた。  もう何度も奥村の思い出を口にして、数え切れないほど泣いたはずなのに、それでもまだこんなにも涙が出る。真宮に言われたひとことで、そんな塊のような悲しい想いがどんどん溶け出した。熱いものが後から後から溢れてきて、押さえることなんてできなかった。ヒクヒクと痙攣するように体が震え、それを真宮がしっかりと両手で抱いていてくれる。  声を上げて泣いた。真宮の着ていたシャツはぐっしょりになっていたけれど、それでも彼は何も言わずにただやさしく抱きしめていた。

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