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06
クリスマスイベント終了まであと三時間を切っている。さんざしの奥の部屋でテーブルの上にはホールケーキの箱が二つ並んでいた。それを挟んで藤崎と真宮は座っている。
「ひとり、ひとホールになりましたね」
「うん。まさか買ってくると思わなかった。用意してあったんだけど、真宮くんのケーキの方が大きいね」
「大きさは選べなかったので、これしか」
照れ笑いをする真宮は、どっちから食べますか、と箱の持ち手のフィルム部分から中を覗き込んでいる。ロウソクは歳の数だけですか? とおかしな事を言いながら、付属のロウソクの袋を開け始めた。まるで子供のようで笑ってしまう。いくつになってもケーキの箱というのは、どこか夢が詰まっている気がする。
だが、これ以上楽しい雰囲気になってしまえば、きっと今日も切り出せなくなる。藤崎はそう思いながら、神妙な顔つきで座り直した。
「真宮くん、話しがあるんだ」
藤崎の声に真宮の手が止まった。緊張した空気が漂い、藤崎が何を話そうとしているのか察している顔だった。けれど恐らく、真宮の想像とは違うことを聞かされるとは、きっと思っていないだろう。何から切り出したらいいか分からずに、少し沈黙が続いた。
「真宮くん、僕に隠していることがあると思うんだけど、そのことを話して欲しいと思っているんだ」
「え? なんですか? 隠してるって……」
真宮の顔が急に険しくなった。探るような少し不安の色を滲ませた目で藤崎を見つめている。静まりかえった部屋の中で、壁に掛けられた時計の秒針がいつもより大きく聞こえた。それが余計に緊張感を煽る。
「お店に、真宮くんのお母様が来たよ。君、華道の家元で長男で、跡継ぎなんだって?」
藤崎が言えば、真宮の表情が徐々に驚きの顔へと変わっていった。おそらく、こんな事を言われると思っていなかったのだろう。
「……っ」
「履歴書にはそういうこと書いてなかったから、お母様から聞いてびっくりした。実家に戻るように言って欲しいって、頼まれたんだ」
ここまで言うと、真宮の顔を見ているのが辛くて、藤崎は視線をテーブルの上の箱に向けた。もっど動揺するかと思っていたが、藤崎は冷静だった。なのに指先はひどく冷えて微かに震えていた。
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