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1-4 ロックじゃなくても。

曲が終わり、センターで歌っていたメンバーが ステージから降りて駆け寄ってきた。 「ひだりせんせー!」 黒髪ツインテールの彼女は、キラキラした瞳でこちらを見上げてくる。 デビュー当初は端っこだった彼女は、今やセンターを張っている。 しかし古株だから繰り上がってきたわけではなく、普通に彼女は当初から実力があったように思う。 「アイちゃん、お疲れ様〜」 「ねえ、どうだった?アイ可愛かった?」 「うん、可愛かった可愛かった」 左が頷いていると、プロデューサーが他のメンバーの元へ行って何か話し始めるのを確認し 彼女は左の服の端を引っ張って顔を寄せてくる。 「ねえちょっといい?」 「ん?どした?」 どこか真剣な顔の彼女に引っ張られ、会場の端の方に移動した。 デビュー当初彼女は年齢も最年少だったし 所謂天然キャラで、みんなの妹的なポジションだった。 ちょっとかわいこぶりっ子な所がメンバー間でのいざこざにも起因していたが、ファンからは人気のようだ。 「アイね、独立しようと思ってるんだけど」 彼女はひそひそ声でそんな風に言っていて、ええ?、と左は驚いた声を出した。 まあこのままだといずれはそうなるだろうなとは思っていたのだが。 「なんで?若い子たちに虐められてる?」 「ちがうよぉみんな仲良しさんだもん」 「あー、ね。虐めてる方かぁ」 「違うってばぁ〜」 左が冗談をいうとアイは漫画のように頬を膨らませて怒ってくる。 こういうオーバーな所を残念ながら彼女は素でやっていて、 とんでもなく好かれるかとんでもなく嫌われるかの二極化を引き起こしている所が 実に”天⭐︎Pie“らしいと左は勝手に思っているので 彼女もいなくなれば大痛手だろうなぁ、と必死に指導しているプロデューサーをチラリと見やった。 「ひだりせんせーにだけ教えるね? アイ、好きな人ができちゃったの!」 「えぇ?マジぃ?」 アイはどこか嬉しそうに頷いていて、なるほど、と左は苦笑した。 まさかの理由だったが彼女らしいといえばそうなのかもしれない。 時代錯誤にさせられたこのグループは、今時恋愛禁止を謳っているし そのくせに好きだの愛だのを歌わせているからお笑いだ、と左は思ってしまうのだった。

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