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1-6 ロックじゃなくても。
帰宅後、左はため息をつきながらも
無理矢理仕事部屋に改造した部屋に引き篭もってギターを弾いていた。
ドラムセットやらキーボードやら所狭しと楽器と電子機器の置かれた仕事部屋は、
やっぱり自分のホーム感があって落ち着く。
数年前に恋人がヤケを起こして買った住宅で、
個人事業主のくせにローン半分持つからと転がり込んでから
じわじわと仕事環境を整え、すっかりと自分のスタジオ兼家になってしまっていた。
「ただいまー」
不意に声が聞こえ、左は顔を上げてヘッドホンを外した。
部屋のドアを開けると、そこはリビングである。
買い物袋を下ろしながら我が恋人である右が、こちらに気付き呆れたように笑った。
スポーティーなジャージ姿に、少々短めの前髪。
大きな瞳は童顔さを引き立たせていたが、別にどこにでもいそうな一般男性なのに
時々左は右の姿が神々しすぎて直視するとぼけっとなることがあった。
今まさにそのような状態で、
口を半開きにしたまま彼を見つめてしまっていた。
「なんだよその顔は」
「…おかえり」
呆然と呟いては部屋を静かに出て右に近付いた。
彼は買い物袋から食材やらを取り出している。
「洗濯物は?」
「…いれました」
「さっすが」
年々彼はなんだかお母さんのようになっていく気がする。
右は小学校で教師をしているので、そのせいかもしれない。
えーこんなかわいい子が僕の恋人なんですか?、と左は初めて見たかのように右をガン見してしまって
それに気付いた右は嫌そうに目を細めた。
「あ?なに?」
彼は邪魔くさそうに微動だにしない左の頬を抓ってくる。
無言のまま抓られていたが、永遠にそうされると流石に少し涙目になる。
「いひゃいっす」
「もうボケたんか?」
ひどい事を言いながら右はまた食材をテーブルに出してしまうと
空になったビニール袋を畳み始めた。
「朝早かったね」
「あー、うん。"校門に立つ係"になっちゃって」
「朝起きたらもう居ないの、結構寂しいんですけどぉ」
「いつまでも寝てるからだろ」
右は食材を持ってカウンターキッチンの向こう側へ行った。
「俺に会いたきゃ早起きしてください?」
カウンターの向こう側で、水道を捻りながら右は意地悪そうに笑った。
愛愛好き好き大好きラブユー、
成る程そういう気分にしかならないものだ、と感心してしまいそうになるのだけれど。
目の前の存在にそんな言葉を使おうとすると、
それはなんだかもったいない気がして。
確かに好きは好きだけど、
それを"すき"の二文字で終わらせてしまうのが少し雑に思えてしまうものだ。
左はカウンターの上に手を置いて、向こう側の右を見つめた。
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