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1-9 彼の円滑な人生
それから左は右とよくつるむようになる。
話す度に妙な感情になっていたが、
それが恋だのと認めることはなかった。
ヨコも交えて3人でしょっちゅう一緒にいたし、仲も相性もいい友達くらいに思っていた。
少なからずとも向こうはそうだったに違いないのだが、
左はいつからか気付けば彼の姿を探していたし、追いかけている自分に不可解さを感じていた。
彼といると落ち着くし、なんだか妙な気持ちがポエジーを掻き立てて作曲も捗るし
ただそれだけと言ってしまえばそうなのだけれど、
左は時々感じるモヤモヤをろくに精査もせずにただただやり過ごしていた。
その年から少しずつ単発で作曲の話が舞い込み、左は元々組んでいたバンドのメンバーと折り合いがつかなくなっていった。
そうやって音楽性の違いとか性格の不一致とかいう有りがちな壁にぶつかってまたヤケを起こし
屋上からバンド内で作った譜面をばら撒いた時も、
メンバーからは見放され、勝手にしろと唾を吐かれたが
右だけは
「よくわかんねえけど、お前も落ちたら怒るぞ」
と言った。
その日は酒に溺れて泥のように眠った。
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