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1-11 彼の円滑な人生
バンドを抜けて、ソングライターとして曲を作り、
駆け出しの歌手や売れないバンドに送り付けた。
幸い好評でそこそこ有名になってしまったものもあった。
楽器も全般そつなく出来たし、ライブに呼ばれることもあった。
そうやって音楽活動が順調に進む中、
右の存在だけが難攻不落で頭を悩ませていたが
押して押して押しまくり、
なんとかかんとか恋人という位置まで漕ぎ着けられた。
就職と同時に珍しくヤケを起こしたのを見逃さず、
この一軒家に転がり込んで夢の同棲生活スタート、といった具合だ。
右は激務をこなしながらも文句を言うことなく家事もしていたし
すぐに愚痴ってヤケを起こす左は依存しきっていて
中高大と同じの腐れ縁のヨコからは
「右にばっか頼るな」
と理不尽に殴られたりもした。
しかし大学生の頃から仕事を回してくれていた音楽プロデューサーいわく、
「凄く丸くなったよね。というか常識的になったと思う」
らしい。
丸くなりすぎてアイドルの曲まで作り出す始末で、
昔の自分が見たら指をさして笑うだろうが。
幾つかの犠牲を積み重ねて手に入れた日常。
左は満足していた。
誰に何を言われようと
そこにはいつも右がいたし、
彼を手放そうなどと恐ろしいことを考えたことは微塵もない。
今はただただ幸せなのだ。
これ以上はない、ってくらいには。
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