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1-17 一方で。

それ以来、また地獄のような日々が始まった。 大学生活も女性に怯えながら暮らす日々が スタートしてしまったのだった。 とはいえ普通に生活をしている分にはほとんど何も問題がなくて 普通に友達を作って普通に勉学やバイトに励み過ごしていた。 そんな最中、左と出会った。 大学の食堂で、相席いーっすか、とやってきた彼は ギターを背負い、茶色く染めた髪と幾つも付いたピアス、 形のいい眉と長い睫毛も相俟って明らかに世界から浮いた存在だった。 最初はヤンキーみたいな奴に絡まれたと怯えていたが、 永遠と妙なことを喋っている彼がすぐに面白くなってしまって いつの間にか仲良くなっていた。 黙っていればモテそうなのに、いちいち要らん事を言うし どこかのらりくらりとしていて、時々女性に引っ叩かれたり 同じ大学の何名かと組んでいたバンド内で揉め事を起こしたり 誰かに怒られているのなんてしょっちゅうだ。 器用なのか不器用なのかわからないやつだな、と思って見ていたのだが 誰にどんな風に扱われようとも、いつも自分を歌っていて やり方はどうあれいつも自分に忠実に真っ直ぐ行動しているような彼の姿に こいつはただただひたすら一生懸命生きているのかも、と思うと ちょっと格好いいな、と どこか羨望のような不思議な感情を抱いてしまっていたのだった。 そんな日々の中で突然、右のことが好きだ!と言われ 右は混乱しながらも、ちゃんと拒否をしてきたはずなのだが 何度断ってもアタックし続けてくる彼に、 恋愛などほとんどしたことがない上に 近々で、自分は一生人を好きにならない、と決めてしまった出来事のおかげでひたすら混乱だった。 それでもめげずに好きだ好きだと言われ続け、 バグを起こした脳のおかげで一瞬逃げるのが遅れて 唇を奪われた時に、 恐ろしく基準が下がっていたせいかもしれないが、 密着しても唇が触れ合っても、 気分が悪くなくて吐かれもしなくて いつまでもいつまでも唇をくっつけていられることが只管嬉しくて 泣きながら、されるがままに唇を奪われ続けて 腰砕けになってしまったことが今思えば大変良くなかったのかもしれない。

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