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1-19 一方で。

帰宅して玄関に入った瞬間安心とともに急にどっと疲れが出て 右は靴を脱ぐために玄関に座り込んだまま暫く靴箱に凭れて動けなかった。 あの保護者が相談に来るようになってますます苦手度が加速していっている気がして。 女性と一対一の環境すら無理だった頃もあった為その頃よりマシかとは思っていたが、 無理に気力だけで耐えている結果だろうか。 「…きっつ」 ぼそりと呟いて、思い出しただけで冷や汗が額に滲む。 心臓がギリギリと締め付けられるように苦しくて、胸が詰まって吐きそうだった。 すぐにこれはいけないと思いながら、深呼吸をして自分を整える。 「…右?」 左の声が聞こえたが 右は呼吸に集中していてすぐに反応することができなかった。 「どうしたの!?大丈夫!?」 左は廊下をバタバタと走り右に駆け寄った。 すぐに肩を抱き寄せられ、右はようやく左の顔を見ることが出来た。 「ああ…左か、大丈夫だよ」 右は力なく笑った。 呼吸のおかげか、はたまたその顔を見たおかげかだいぶマシになっていたが 左はどこか心配そうに目を泳がせている。 「大丈夫じゃないでしょ…顔色悪いよ?」 左は右の肩を撫でてきたが 右は彼の体に手をつき、身体を離すと自力で立ち上がった。 「ん。治った」 右は笑みを浮かべ、やっと靴を脱ぐことができた。

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