23 / 66
1-22 一方で。
本当に左は不思議なやつだ、と思う。
さっきまで死にそうに痛んでいた心臓も今は落ち着きを払っている。
「本当に?無理してない?」
「大丈夫だよ。驚かせてごめん」
右はリビングに向かったが、左は後ろをついてくる。
キッチンに辿り着き、冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いだ。
「……僕に言えないこと?」
コップに口をつけたところでじっとこちらを見ていた左が呟いた。
無視をして右は液体を飲み干した。
「なんでもないってば、ちょっと疲れただけ」
右がそう言うと左はどこかしゅんとなっていて、
なんで自分のためにそんな顔をするのか理解できないのだが
右はため息を零しながら彼の頬に人差し指を突き刺しておいた。
「お前の顔見たら治ったよ」
これは割と本当なのだけれど。
左はどこか疑うような目で見つめてくる。
「本当にぃ?なんか急にデレられると疑っちゃうんですけどぉ」
「はぁ?」
「ボディチェックしまーす」
多分機嫌はもう戻っているらしいのだが、左はそんな風に言いながら右を抱き寄せてきて
腰に回した手でするりと衣服の中に侵入してくる。
「ちょ…おい…!」
右は暴れるのだが、片手を掴まれて腰に回した手が身体を密着させ
そのまま唇を奪われてしまった。
流されたくないと必死に抗い首を動かすのだが、唇がすぐ離れてもまた追いかけられて塞がれてしまう。
「っん…ばか…、やめろっ、て…」
「んんー」
左はどこか楽しそうに服の中に侵入した手で背中を撫でてきて、
素肌に触られるとざわざわとした妙な熱に襲われ始めてしまう。
唇が離れ文句を言いたかったが、彼にぎゅうっと抱き締められる。
「…無理しないでよね」
耳元でどこか辛そうな声を出される。
そんな風に心配する必要なんてないのに、と右は奥歯を噛みながら小さく頷くことしかできなかった。
「右が居なくなったらやだよ…」
「居なくなるわけないだろ…バカだな、心配しすぎなんだよ」
「うん、ごめん…」
抱き締められながらも、それでもどこか悪い気がしていない自分がいて
右はそんな自分に呆れながらも彼の背中を撫でてやった。
やがて彼に耳を舐められて、ひゃ、と変な声が出てしまった。
「…っ、や、こら…」
食べられそうな勢いで耳にしゃぶりつかれ、頭に血が昇り
右はあいた片手で彼の鳩尾に拳を沈めた。
変な声を上げながら左は蹲り、震えているようだった。
「も、う!調子乗んなハゲ!」
「ぐ…ハゲ…てないし…」
震える左に、右は顔が発火しそうになりながらも目を三角にして怒って
キッチンから追い出すのだった。
ともだちにシェアしよう!