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1-23 タイムスリップ
先日、知らない番号から連絡があった。
相手は、戸賀という男だ。
戸賀は大学時代組んでいたバンドのメンバーだった。
屋上から譜面をばら撒いた事件の後、彼は何度か戻ってこないかと言ってくれていたが
断り続けて結局その後どうなったのかは知らなかった。
久々に飲みにでも行こうと誘われ、左は色々と考えてしまったが
もうお互い大人になったし、と行ってみることにした。
「よぉ」
戸賀は時が止まったように成長していなかった。
小柄で、幼い顔立ち。
今時風に短めにカットして明るく染めた髪の毛も、その耳に光るピアスやアクセサリーも高校生が背伸びしているみたいに見える所もあの頃とさして変わっていないように感じる。
彼はまるで昨日会ったように、ラフに挨拶をしてくる。
「…久しぶり」
「ごめんな、急に連絡しちゃって」
「ん。めっちゃびっくりしたぁ
誰に僕の連絡先聞いたのさ」
「へへ。ヒ・ミ・ツ」
その少し舌足らずな喋り方も、全能感に充ち満ちた挑戦的な眼も変わっていない。
左はタイムスリップしたような気持ちになりながら、彼についていって
バー的な所に連れて行かれた。
飲みに、と言われたものの昔酒で失敗して以降
あんまり飲まないようにしていたのだが、
一杯くらいはいいかと、注文した。
「半年ぶりくらい?」
「何言ってんの?僕らもう26だよ?」
左が笑うと、戸賀は頬杖をついて
そんなに経つっけ、と口を歪めて笑った。
大学卒業して以来お互い消息不明になっていたはずだったが
彼の変わらなさには自分もそんな感じがしてしまうのはわからないでもなかった。
「まだ歌ってんの?」
「ん、まぁね。今ある事務所で世話になってる。」
「ふーんそっか…全然知らなかった」
「ひどーい。結構人気なのよ?」
左が抜けたあのバンドもメンバー編成は多少変わったものの
まだ音楽活動はどうやら続いているらしい。
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