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1-24 タイムスリップ

戸賀はボーカリストで、その歌声は嫌いではなかったし バンドもうまく行っているようなので、 自分が抜けた意味はあるのかなと思ったりした。 方向性が違ったとしてもかつて志を共もした仲間が 同じ世界でまだ活動しているのは嬉しかった。 酒が運ばれてくると、戸賀は眉根を寄せている。 「お前まだそんな甘ったるい酒飲んでんの?」 「いーじゃーん好きなんだから」 戸賀は風貌に似合わずビールをジョッキでかっ食らっていて 左は口を尖らせながらもほとんどジュースに近いような液体をちまちまと飲んでいった。 「なんか…変わってなくて安心した」 「戸賀はもうちょっと成長したら?」 左は自分の額に手を当てて、垂直に彼の頭の上を通過させると 戸賀は怒ったように目を細めてくる。 「うるせえーっつの」 「ははは。年齢確認されなくてよかったね」 「はぁ…そういう減らず口もなんか逆に懐かしいわ」 彼はいちいちプリプリと怒って暴れるので非常にからかい甲斐のある人間ではあったのだが その日その瞬間をのらりくらりと過ごしている左の姿は 彼にとってはかなりのストレスだったようだ。 左もまた、その情熱的な部分や妙な押しの強さが時々少し苦手に感じていて 学生や若さという未熟な要素だらけの2人はしょっちゅう喧嘩していたものだ。 だが今は過ぎたことである。時が経てば許せる。 少し大人になったと言うことだろうか。

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