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1-25 タイムスリップ

「しかし驚いたな。 お前も先輩もアイドルの歌なんか作ってるなんて…」 「愛愛好き好き大好きラブユー」 「ふざけやがって」 「ま、僕もうクビになっちゃったけどねー」 左は苦笑しながらもコップに口をつけた。 大学時代のバンドの面倒を見てくれていた先輩バンドの1人が、 例のアイドルソングを作った人であった。 戸賀は当時彼のことを相当に尊敬して、歌い方も真似していたりしたし それ故に怒るのも無理はないのかもしれないが。 近藤プロデューサーもああ言っていたけれど、 それはそれで一つの才能だし仕事の形だと左は思っていた。 仕事というのはそういうものでは、とも。 「お前の、"あなたと洗濯機で回りたい"ってやつ?」 「そ。めっちゃ評判は良かったんだけどねー おじ様方はもっと可愛らしいのがご所望だったみたい」 左はのほほんと呟いた。 独特な歌詞に奇抜な音楽。 アイドルソングとしては目を引き、時折歌番組を騒がせたものだったが クビになるのもまた一興、と過ぎたことをいちいち考えない左は楽観的に観測していた。 しかし戸賀は不機嫌そうである。 「…お前はずっとこっちの世界で生きていくんだと思ってた」 戸賀は椅子に深く座り俯きがちに呟いた。

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