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1-26 タイムスリップ
確かにあの頃の自分はロックだけだった。
今の戸賀のように突っ張っていたし、
ロックに定理なんてないのに、自分の自信のなさを隠すために
無関係のものを無意味に否定したりもした。
どこか不満げなその横顔は、
良い意味でも悪い意味でもやっぱり変わってなくて
戸賀はまだそこにいるんだね、と喉まで出かかって甘ったるい酒で飲み下した。
「…なぁ、左…また俺とバンドやろうぜ」
戸賀に見つめられ、左はとぼけるように首を捻った。
「僕とやる意味あんの?」
「……あるよ、左の曲が好きだ」
「洗濯機で回るのは嫌なんでしょ」
左はふざけたが戸賀に睨まれ口を閉ざす。
確かに彼の歌は、嫌いではないし、寧ろ当時は最高だとすら思っていた。
独特なハスキーボイスが耳に心地よくて、
そんな声に合わせて曲を書いたのも事実だ。
だけどやり方でも性格面でも折り合いがつかなくなったし、音楽性の違いとやらでぶつかったのも事実だ。
多少歳食ってお互いに大人になっていたとしても、
どうせまた同じ事になるのは目に見えていた。
お互い真剣だからこそ、尚更。
「お前はこっちの方が向いてる」
「嫌だね。向き不向きとか関係ないし
それにさ、必要って言ってくれてる人のために仕事するのも案外悪くないよ?」
正直今はバンドや自分達だけで表現する音楽には魅力を感じなかった。
全くロックではないかもしれないが、今の左には
晴空るりこや駆け出しのアイドルの方がよっぽど面白く感じていた。
いや、ロックに定理などない。
故に彼女達の姿こそロックなのではとすら思っていた。
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